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「気になる!くまもと」Vol.1005

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0122072 更新日:2022年1月20日更新

​賢く、おいしく。
心身を整える「発酵生活」のすすめ。

寺澤希さんの写真

手作り味噌の写真

24節気の一つ、「大寒(だいかん)」。毎年1月20日頃から2月3日頃までを指し、1年で最も寒さが厳しいとされる期間だ。いわゆる「寒の水」で仕込まれる酒、醤油、味噌などは、発酵がゆっくりすすむことで、味に深みが出ると言われており、この時期特に注目度の高い食べ物として知られている。そこで今回は、熊本を拠点に料理教室やフードアドバイザーとして活動する発酵のスペシャリスト、寺澤希(てらさわのぞみ)​さん(「HANDMADE発酵」主宰)を訪ね、心身を整えてくれる発酵の奥深さとその魅力、アスリートから食のプロに転身を果たした、激動の人生を伺った。

サッカー人生を賭けた、現役最後の年。
熊本地震で大きく揺らいだ現実。

小学生のときに地元のクラブでサッカーを始め、中学・高校とひたすらサッカーに打ち込む日々を送った寺澤さん。早稲田大学時代は日本一という輝かしい実績を残し、卒業後に帰熊。なでしこ2部リーグ ルネサンス熊本FCに所属し、仕事とトレーニングを続ける日々を送った。20代後半に差しかかり、アスリートとしては今年が最後かもしれないと自分なりに身体作りに励むなかで、「ファスティング(断食)」に取り組むことに。断食をすることで疲れにくい状態を維持しつつ、パフォーマンスを引き上げることに集中した。そんなシーズン目前、身体の変化と手応えを感じていた矢先に、熊本地震が発生した。

寺澤希さんのインタビュー写真

チームワークで勝利をつかむサッカーの面白さに魅せられたという寺澤さん。「生まれ変わってもまたサッカーをしたいですね」と話す笑顔がまぶしい。

寺澤希さんのサッカー選手時代の写真

「アスリートは、プレーで結果を残すことが全ての世界。今思えば、顔つきも違っていました」。チームのリーダー的存在だった現役時代の寺澤さん(後列左から2番目)​

通常、ファスティング後は身体が敏感になっているため、計画的に栄養を取るなどの、ケアが必要とされる重要な期間。だが被災直後の避難生活では、望むような食生活が叶うはずもない。「それまで食事制限で抑制していた反動もあったのか、普段の生活が戻ってきても、食生活は乱れたまま。毎日お酒を飲む生活が続いていました」。チームが活動を再開したにもかかわらず、すっかり熱意を失ってしまったという。サッカーをしたいと思えなくなってしまった自分を責める日々。「当時、保険会社に在籍していたので、仕事も多忙を極めていました。そんな状況もあいまって、蕁麻疹(じんましん)が出たり、自律神経が不安定になったり‥すっかり心身のバランスを崩してしまったんです」。サッカーに捧げてきた人生。突如降りかかったその現実が、寺澤さんにとっていかに苦しいものであったか。その苦しみは計り知れない。その年、寺澤さんはサッカーを引退した。​

「失った自分を取り戻したい」!
その一心で腸活に挑んだ日々。

サッカーも、やる気も自信も、失ったものを取り返せないまま日々を過ごすなかで、転機となったのは、友人からの「腸をきれいにしてみたら?」という何気ないひと言だった。元々料理は好きだったが、選手時代は仕事と練習で精一杯で、食事は長年の課題だったという。「食事は、多くのアスリートにとって課題の一つ。特に私が所属していた女子サッカーチームはプロチームではないので、仕事と練習、さらに食事まで充実させるのはかなりの努力が必要でした。素直に腸内改善に取り組んでみようと思えたのも、選手時代にやりたくてもなかなか実践出来なかったからかもしれません」。
手始めに取り組んだのは手作り味噌。「初めて食べた手作り味噌の味が忘れられません」と感動を口にする寺澤さんが持参してくれた味噌をひと口いただく。市販の味噌とは違う、丸く優しい味わいが口の中に広がった。「食はすぐに結果が出るものではありませんが、食べるもので身体が作られることを改めて実感しました。何よりこの味噌がおいしいから、続けられてきたのだと思います」。今では、麦味噌、塩麹、醤油麹、この3つの手作り調味料と少しの赤酒で、和食・洋食・中華料理、なんでも作るという寺澤さん。「発酵調味料と赤酒※があれば、どんなジャンルの料理も作れるんです。“勝手に赤酒大使”として赤酒の魅力も発信しています(笑)」。

※赤酒…熊本が肥後藩だった時代に、御国酒として保護され造られていた「赤酒」。お正月にいただくお屠蘇で赤酒を用意する文化は熊本だけのものです。


大津産の有機大豆を使った手作りの麦味噌の写真

大津町産の有機大豆を使った手作りの麦味噌。ふっくらと柔らかい大豆の粒をあえて残すのが寺澤さん流。市販の味噌に含まれる半分以下の塩分で仕込んでいる。

手作り調味料の写真

寺澤さんが持参してくれた3種の発酵調味料。左から、2カ月熟成させた麦味噌と、昆布を入れてダシの旨味も加えたオリジナルの醤油麹、紅塩でピンク色に染まった塩麹。

内面にもアプローチする発酵の力。
若い世代に「食」の大切さを伝えたい。

「発酵を取り入れるようになって、少しずつ心も身体も変化していたんだなと思うことがあって」と寺澤さん。競争社会に生きてきたせいか、自分にも他人にも厳しい部分があったという。「心が穏やかになり、毎年かかっていたインフルエンザや風邪もめっきりひかなくなりました。月に15回ほど料理教室を開講しているのですが、生徒さんの中には、夫婦喧嘩が減ったという方もいらっしゃって。良好な夫婦関係を維持していくためには“自分が変わらなくちゃ”なんて言いますが、腸を変えた方が早いと思っています(笑)」と、生徒さんの話をする寺澤さんの表情が一気に明るくなる。寺澤さんにとって、自分も相手も学びを通じて高め合う関係性は、サッカーも、発酵も同じだ。今は「食」というフィールドで、変わらずチームプレーに喜びを感じている最中だ。「その人に合った食べ物や、栄養価を効率的に吸収するために効果的な食事の順番もあり、食の世界は本当に奥深い。そこに発酵の力を取り入れることで、いい変化をもたらすことができるはず。これからは、現役アスリートや若い世代向けて、“食”の大切さや、発酵の面白さを伝えていきたいです。その中で、たった一つでも“気づき”を得てもらえたらうれしいですね」。

寺澤希さんの手の写真

麹菌に毎日触れている寺澤さんは「ハンドクリームを使わなくなった」というほど、しっとり肌に。肌質も変わったというから、麹菌パワーはすごい!

寺澤希さんの料理教室の写真

現在は、小中学校での食育講座、カフェ「AA(ダブルエー)」で月に1回、少人数制の発酵教室などを開講している。生徒さんの喜ぶ顔が、何よりの喜びだとか。

【DATA】
HANDMADE発酵
HP  https://handmadehakko.shopinfo.jp<外部リンク>