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「気になる!くまもと」Vol.989 新阿蘇大橋を渡って南阿蘇村へ!

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0096759 更新日:2021年5月20日更新

「場を想う力」が村をつくる。

 おふくろ亭の画像

 たるたま温泉の画像

 2021年3月7日。熊本地震から約5年の歳月を経て、ついに新阿蘇大橋が完成した。阿蘇に暮らす人々にとっては待ちに待ったインフラであると同時に、南阿蘇エリアへの観光ルートの回復によって阿蘇観光の活性化に大きな期待が寄せられている。南阿蘇の復興のシンボルとして生まれ変わった橋の完成は、新しい阿蘇の歴史の幕開けといえるだろう。この新しい橋を渡り、復興への道のりを懸命に歩んできた場所を訪ね、そこに息づく「阿蘇人(あそんもん)」たちの想いに触れた。

南阿蘇の復興のシンボル 日本有数の名橋が完成!

 新阿蘇大橋の画像
活断層と険しい谷をまたぐ新阿蘇大橋。熊本地震のような揺れに見舞われた場合もすぐに復旧できる特殊な構造が採用された。

 南阿蘇を分断する立野渓谷をまたぎ、国道57号と南阿蘇をつなぐルートとして、昭和46年に阿蘇大橋が完成した時の人々の喜びはどれほどだっただろう。2016年の熊本地震で崩落して以来、5回目の春。天翔ける新阿蘇大橋の姿をひと目みようと、多くの人が訪れた。
 新阿蘇大橋が建設されたのは、以前の阿蘇大橋があった場所より、600mほど下流。険しい峡谷をまたぐ雄壮な橋は、将来、熊本地震と同規模の地震が発生しても素早い修復が可能な屈強かつ柔軟な構造が特長だ。橋の1日も早い復旧を願い、24時間体制で工事が行われた新阿蘇大橋は、さまざまな技術を駆使した国内屈指の名橋として姿を現した。

展望所から望む景色が阿蘇の起源を物語る。

 阿蘇ジオパークジオガイドの画像

「立野渓谷は、阿蘇の歴史を語る際に欠かせない鍵となる場所です」と話すのは、阿蘇ユネスコジオパーク ジオガイド 藤尾陽子(ふじおようこ)さん(右)と広瀬顕美(ひろせあけみ)さん(左)。


 国道57号から新阿蘇大橋を渡ると、橋のたもとには展望所「ヨ・ミュール」がある。熊本弁の「よく見える」から名付けられた展望所からの景色は、実に多彩だ。眼下は立野渓谷、遠くを見渡すと熊本平野、晴れた日には長崎県の雲仙普賢岳まで見える。「目の前に広がる原生林は、国指定の天然記念物。この谷がこれまで人を寄せ付けなかったことの証です」と語るのは、ジオガイドの藤尾陽子さんだ。
 「阿蘇の神話の中に、カルデラを蹴(け)破り、平地を作ったとされる神様が登場します。その神様のおかげもあって、阿蘇の街は繁栄したのですが、今回の地震でその神様の存在を改めて感じました。私たちは熊本地震によって大きな被害を受けましたが、自然の脅威と共存し続けてきたからこそ、多くの方が愛してやまない南阿蘇の景色があることも事実なのです」。厳しい自然環境とどう折り合いをつけながら、暮らしを発展させていくのか。展望所から望む景色には、私たちにとって大切な課題が示唆されている。

  ヨ・ミュール展望台の画像

「生きる力」が満ちてくる、温かいおふくろの味。

 展望所の脇の道をのぼり、車で約5分。静かな山間の景色の中にある、一軒の食堂を訪ねた。「おふくろ亭」は「ここを通る人たちに、温かい料理を提供したい」との思いから、店主の橋本(はしもと)としえさんが2015年にオープンした店だ。名物は、自家製ニンニクと味噌で仕立てたホルモン定食と、あか牛丼。そしてカウンター越しに伝わる橋本さんの気さくな人柄だ。当初は学生たちでにぎわっていたが、熊本地震で被災。再開した今では観光客や工事関係者、地域住民など、多くの人が集う場となっている。

 おふくろ亭の橋本としえさんの画像

「店が残ってくれたから。気持ちを上向きにして、ここで踏ん張るしかないね」と笑顔を見せてくれた「おふくろ亭」の店主・橋本としえさん。

 橋本さんの話を聞いていると、この料理を再び味わうことができることを奇跡だと感じずにはいられなかった。熊本地震の際、全壊した自宅の下敷きになり、6時間にわたり身動きがとれない状態にあったという橋本さん。4カ月の入院生活を経て、なんと同年10月にはお店を再開。そのバイタリティはどこから湧いてくるのだろうか。「ボランティアの方からトイレがない、食べるところがない、という声を耳にしたんです。幸い店の被害はほとんどなかったので、店を開ければ何らかの力になれるかもしれないと思ってね」。何が正解かわからない中でも、自らを奮い立たせ、支えられる側から、支える側へ回った橋本さん。温かな家庭料理に添えられた、相手を思いやる深い愛情に勇気をもらった。

 おふくろ亭のホルモン定食の画像

店舗横の畑で育てる自家製ニンニクが味の決め手! さっぱりと食べられ、噛むほどに旨みがあふれる「ホルモン定食」(700円)。

 おふくろ亭のあか牛丼の画像

阿蘇の名物・あか牛を食べやすい牛丼にアレンジした「あか牛丼」(1,000円)。観光地でありながら、良心的な価格設定。

温泉、地熱、湧水。垂玉温泉の宝を次世代へ!

 南阿蘇で約200年以上続く垂玉(たるたま)温泉で、ただ1軒営業を続けてきた「山口旅館」。今年4月に日帰り温泉の「垂玉温泉 瀧日和(たきびより)」として再出発した。地熱の湯気が立ち上り、旅館があった場所には、8代目の山口雄也(やまぐちゆうや)さんが切り盛りする「タマカフェ」がオープン。日帰りで楽しめる温泉は、かつての大浴場に加えて、新たに3つの家族風呂も新設した。将来的には、トレーラーハウスの活用や、散策コースの整備など、この環境を思う存分味わってもらえる構想を描いているという。

 たるたま温泉の画像

 その大胆な方向転換の理由を尋ねると、「まず第一に安全性の確保のためです。再び熊本地震のような地震に見舞われても、お客さまを守れる環境を優先しました。旅館ののれんを下ろすことに、もちろん葛藤はありましたが、垂玉温泉は元々湯治場として親しまれてきた場です。ここにある温泉や地熱、湧水という宝物を着実に次世代へとつなげていける道を選びました」と語る言葉の端々に、覚悟がにじむ。

 たるたま温泉の画像

 たるたま温泉の画像
垂玉温泉の泉質は、鉄分と保湿成分であるメタケイ酸が豊富に含まれる単純硫黄泉。香りや手触りに癖がなく、誰にでも広く愛されてきた自慢の湯だ

 たるたま温泉の山口さんの画像

「建物は無くなっても、これまで訪れてくれた人々の想いはここに積み重なっています。今は、お客さまからの“再開してくれて、ありがとう”の言葉に感謝する日々です」と笑顔を見せてくれた山口さん。

 熊本地震の際、この地域は道路が寸断され、宿は土砂に埋もれた。混乱の最中、源泉のある「金龍の瀧」の滝壺も土砂に埋もれていたものの、わずかに上がる泉煙(せんえん)を見た時、再開に向けて希望を抱いたという。「全壊しているので、瓦礫の撤去もしなくていいという気持ちだったのですが、土砂に埋もれた看板が出てくるなど、少しずつ片付いていくうちに、気持ちの風通しが良くなったのです。ボランティアの方々は、単純に片付けをしているわけではなく、気持ちに風穴を開けに来てくださっているんだなと気付きました」。旅館の名前よりも、大切な場の力を受け継ぐ決意をした山口さん。その言葉の向こうに、南阿蘇の村全体が醸し出す優しさの理由を垣間見た気がした。

たるたまおんせんたきびよりのがぞう

明治時代に3代目が築いたという見事な石垣は、熊本地震を乗り越えた大切な財産だ。当時の石工(いしく)たちの見事な手仕事も見どころのひとつ。

 たるたま温泉のメニューのひとつ、蒸し野菜の画像

カフェで旬の野菜をカットした籠盛りを購入して(700円・1000円)、外の蒸し釜で蒸し上がりを待つこと約8分! 野菜の甘みが引き出された野菜は、湯上がりにぴったり。

阿蘇は、熊本が世界に誇る財産だ。そのなかでも、南阿蘇の豊かな自然の恵みは、いつでも私たちの心と身体に寄り添い、優しく癒やしてくれる存在。そうした豊かさを享受する一方で、それを守り継ぐ人の存在や、自然が永遠でないことを心に留めておく必要がある。自然と「共生」することの意味を、今後も考え続けていきたい。

南阿蘇の看板の画像

 

阿蘇ユネスコジオパーク ※ツアーなどのお問い合わせ
熊本県阿蘇市赤水1930-1 阿蘇火山博物館1階
Tel 0967-34-2089 (阿蘇ジオパーク推進協議会事務局(阿蘇ジオパーク推進室)
阿蘇ジオパークガイド協会事務局)平日9時~17時


おふくろ亭
阿蘇郡南阿蘇村大字河陽4950−1
12時00分〜14時00分
月曜休み


垂玉温泉 瀧日和
阿蘇郡南阿蘇村河陽2331
0967-67-0006
10時00分〜19時00分(最終受付18時00分)
水曜休み
料金 大浴場 大人800円、子ども(小学生)400円、未就学児無料
貸切湯 2,500円(1室・1時間)