本文
熊本地震から丸5年。甚大な被害を受けた熊本城も少しずつその勇姿を取り戻しながら、これまで2度の特別公開で復興の様子を伝えてきた。そして、ついに「熊本城特別公開第3弾」として天守閣内部の一般公開がスタート予定だ。(※新型コロナウイルス感染症の急速な拡大により、当面の間天守閣内部公開を延期。)
リニューアルされた展示物や展望フロアからの眺望はもちろん、視覚化された耐震性能や音声ガイドアプリなど、訪れる人が皆、楽しみながら学べる仕掛け満載の熊本城天守閣を訪ねてきた。
二の丸公園の駐車場から、天守閣の入口となる小天守まで、すべてスロープで移動できるバリアフリー設計
天守閣に進むと、青空を背に誇らしげな大小の天守が出迎えてくれた。周囲にはいまだ被災した姿を残す櫓(やぐら)や石垣も点在するが、天守閣を支える石垣は、400年前からほぼ変わらない姿に復旧されていることに驚く。地震での崩落後、修理するすべての石に番号を振り、少ない資料と石工の技術によって、被災前と同じ並びに積み直した。その途方もない取り組みに敬意を払いつつ、いよいよ天守閣の内部へ入る。
入口のある小天守の「穴蔵」には、今回の復旧の際に設置したX字の制震ダンパーを見ることができる。熊本地震と同程度の揺れにも屈しない設計になっている
ぐるりと張り巡らされた石垣を背景に、剥(む)き出しの制震ダンパー、巨大なスクリーン。熊本城天守閣は地震後、徹底的な耐震補強を行い、来館者には視覚的にも安全性が伝わるようにと展示計画が組まれた。
入り口のある小天守地階から1階へ上がると、壮大な絵巻物のような空間が広がる。リニューアルされた天守閣の展示では、現在の熊本城が築かれる以前から現代まで、階ごとに異なる時代背景が描かれる。さまざまなデザインテイストで展開する、ドラマチックな空間構成にも注目したい。
1階の加藤時代と2階の細川時代は、黒を基調とした空間。展示内容によって演出が変化する。
熊本城天守にまつわる情報を色あざやかに表現する壁面展示や、リニューアルにあたって新たに制作された映像、精緻な模型など、盛りだくさんの内容に目を奪われる。興味の赴(おもむ)くままに眺めていると、いつの間にか歴史の渦へ…あっという間に時間が経ってしまう!
最新のテクノロジーと現存する文献資料を融合させた展示は、実際に歩いてみて、それぞれの見どころを発見してほしい
「展示物は勉強になるだけでなく、楽しみながら周っていただける演出となっています」と熊本城調査研究センターの木下泰葉(きのしたやすは)さん
熊本の街の歴史や地理、文化まで多彩な視点で楽しめる天守閣だが、特筆したいのは体感型の展示が多いということ。タッチパネルで建物の内部までのぞける天守閣の模型や、熊本城検定クイズ、江戸時代の熊本城周辺を緻密に再現したジオラマ模型にプロジェクションマッピングを投影した「城郭・城下模型」など、見るだけではなく、体験することで学びを深められる工夫が凝らされている。
さらに6階の展望フロアでは、スマートフォン・タブレット端末で現在の風景と古写真を見比べられるAR(拡張現実)を活用したコンテンツも。天守閣最上階からの絶景を見渡せば、令和の熊本城主の気分を味わえる。
天守閣の最上階にある展望フロアからの眺めは圧巻!
天守閣の展望フロアにあるARマーカーにスマートフォンをかざすと、かつての熊本の古い街並みが立ち上がる。現代の風景と重ね合わせながら楽しみたい
今後も世界中から多くの人が訪れるであろう、熊本城天守閣。親子で使えるトイレ、車椅子でもスムーズに通り抜けできる展示空間やエレベーターなど、訪れる人が心地よく利用できる細やかな配慮が随所に光る。また、スマートフォンをかざして展示の内容を音声で聞く「音声ガイドアプリ」や映像ナレーションの同時字幕表示で、展示内容を誰もが余すことなく楽しめる仕掛けもぜひ活用したい。
入口から最上階まで各階をつなぐ“おもいやりエレベーター”や多目的トイレ、点字ブロックなども設置
熊本城公式アプリをダウンロードすると、館内の多言語対応の音声ガイドや映像の字幕がスマートフォンに同時表示されるシステムも導入
熊本の歴史の歩み、かつての街のこと、展示物のデザインや空間構成まで、個々の興味に応える多彩な魅力を携えて再出発をした熊本城天守閣。震災前と変わらぬ勇壮な姿は、地震から5年という月日の中で、目の前の現実に屈することなく前を見続けて来た、人々の心を映す鏡だ。今この瞬間に立ち会えた奇跡を噛みしめずにはいられなかった。
熊本地震で使ったブルーシートを活用した御守り。「後来不落(こうらいふらく)」の文字が掛れた御守りの中には、割れた瓦が入っている