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「気になる!くまもと」Vol.997

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0110010 更新日:2021年9月16日更新

​手を伸ばせば、届く場所にある。
私たちが“島の宝”と生きる理由。

星野さんの写真

莟さんの写真

熊本県には大小さまざまな178の島がある。なかでも天草諸島に浮かぶ島々は、透きとおるような海と自然が織りなす風景、新鮮な特産物、温かい人とのつながり…行った人にしかわからない特有の魅力にあふれている。一方、“観光”として巡る楽しさだけでは気付けないもっと深い部分に魅了され、島で生きることを選んだ人もいる。「いわらぼ」の星野真理(ほしのまり)さんと、「湯島屋」代表の莟和宏(つぼみかずひろ)さん。それぞれにお話を伺った。

地域はすでに“興(おこ)っている”。
今ある魅力に気づくことから始まる

「私は“地域おこし”も“地域活性化”という言葉も好きじゃないんです。なぜなら、もうすでに地域は“興って”いますから」。インタビュー終盤、星野真理さんがふと口にした言葉が深く胸に刺さる。
上天草市大矢野町から2つの橋を渡った先にある維和島(いわじま)は、ありのままの自然が残る、ゆるやかな空気感が魅力の島だ。冒頭の言葉に取材班が驚いたのは、維和島で地域づくり団体「いわらぼ(維和島振興協議会)」を立ち上げ、活動3年目を迎えた星野真理さんこそ、地域おこし協力隊の一員でもあるからだ。

星野さんと天草の海の写真

「維和島に移住して一番変わったことは、自然をみる眼を養うようになったことですね。自然が怖いと思ったことがなかったけれど、ここでの暮らしは自然から目をそむけることはできません」と星野さん

熊本生まれ、埼玉育ち。飲食業やスポーツアパレルブランドを経て、2019年7月に地域おこし協力隊として維和島に移住した星野さん。
「維和島には祖母が暮らしています。幼い頃はお盆と正月に帰省する程度で、親戚と遊ぶのは楽しかったんですが、方言もわからりづらいし、ここで何をしていいのかがわからず、なかなか馴染めずにいました。ある時、社会人になって初めて自分の意志でこの島を訪れた時、目の前の現実にしがみつかなくても、自分の居場所はここにもあるんだと感じて、心底ホッとした自分がいました」。

天草の風景の写真

星野さん自ら撮影した、とっておきの維和島の風景。ここからの風景には、幾度となく癒されたそう。

それからしばらくは、関東と維和島の2拠点生活を続けた星野さん。少しずつ島の人々と交流を深める中で、高齢化や空き家問題、地元産業の弱体化など、島の課題が見えてくるように。「今はインターネットもあるし、島のために自分ができることもあるんじゃないかな、と移住を決めました」。​

モニターツアーの写真

モニターツアーでは、島の特産物である柑橘類の収穫を体験することも。柑橘は旬が短いからこそ、現地でしか味わうことのできない特別な味覚の経験になる。(写真:星野さん提供)

小型船の写真

海面と距離が近い小型船で、島々を巡る「アイランドホッピング」のプランも計画中。波が穏やかで、島が無数にある天草ならではのアクティビティだ​。(写真:星野さん提供)

現在は、島の多彩な魅力を伝えるモニターツアーを企画したり、島の生産者と関わる中で見出した野菜や柑橘類などの島グルメを発送する「星のマルシェ」を立ち上げるなど、星野さんならではの視点が光る活動を続けている。

「私の仕事は、地域のすでにある魅力を、私ならではの視点で発見しながら、改めてその魅力に気づいていくこと。オンライン文化が成熟したことで、島の間口は広がったと思っています。オンラインで島を感じてもらうこともできますし、週末や、季節ごとに訪れることもできる。個々の状況に応じて、島で過ごす時間や空間の使い方は、無限に広がります。それぞれのニーズに応じた島時間を案内できるように、常に島が持つ可能性に目を凝らしています」。

野菜の写真

空き家だった畑付きの民家を拠点とする星野さん。農業は未経験だったものの、すでに多品種の野菜が収穫できるほどに腕を上げた。(写真:星野さん提供)

みかん畑の写真

多種多様な柑橘類が特産品でもある維和島。写真は、みかんの木それぞれにオーナー制を導入したみかん畑でのひとコマ​(写真:星野さん提供)

そこにある島をいかに楽しむかは、人それぞれ。星野さんのように、Iターンで島を訪れ、都会にない居場所を感じる人もいるだろう。島の恵みを間近に感じる体験を楽しむ人もいれば、海に囲まれた手つかずの自然の中で人や自然と触れ合えることに、楽しみを見出す人もいる。釣りや農業体験にチャレンジして、「うまくいかなくてもどうにかなる」という経験値を得ることもできる。つまり、島を楽しむ方法は、一人ひとりの心の数だけあるのだ。

「島の内と外、その垣根をできるだけ低くして、まずは一度訪れてもらうことが一番。その時間を通じて、観光の楽しみだけに止まらない“学び”の経験が提供できたらと思っています。私はここで、人の流れと拠点を作るプラットフォームになれたら嬉しいです」。
また今後は、地域おこし協力隊として新たなメンバーが維和島にやってくる予定もあるとのこと。
「一人ではなかなかできなかったけれど、思い描いてきたことを形にしながら、これからもっと維和島を発信していきたいですね」。
そう語るまっすぐな瞳の先には、穏やかな維和島の海が広がっていた。

天草の海岸からの風景の写真

【Data】
地域づくり団体「いわらぼ(維和島振興協議会)」
所 熊本県上天草市大矢野町維和1787

HP :https://iwalab.info/
Facebook:https://www.facebook.com/iwalab (@iwalab)
Instagram:https://instagram.com/iwalab.info?igshid=byxdjedpdx2n (@iwalab.info)
IWALABいわらぼ(Youtube)

「島の土の上で一生暮らしたい」。
島民の願いを叶えるために、僕がいる

​​​天草諸島と島原半島のほぼ中間に位置する、周囲約4kmほどの小さな島、湯島。海に囲まれたこの島は、漁業が盛んで素潜りや一本釣りなど、自然の中で生まれた漁法が息づく街だ。近年では、“猫の島”としても注目を集め、多くの観光客でにぎわう光景が記憶に新しい。そんな湯島に魅了され、湯島へ移住。現在は「合同会社湯島屋」を運営する莟和宏さんに島暮らしの日々を伺った。

莟(つぼみ)さんの写真

地域おこし協力隊を経て、湯島で「合同会社湯島屋」を立ち上げた莟さん。湯島の観光の窓口としてはもちろん、農業や福祉など多岐に渡る事業に精力的に取り組んでいる​。

湯島全景の写真

周りを海に囲まれた湯島の全景。島には天草市大矢野町にある江樋戸(えびと)港から、1日5往復している定期連絡船で渡る。片道約25分の海の旅も湯島旅の醍醐味​。(写真:莟さん提供)

莟さんがはじめて湯島を訪れたのは、2015年のこと。元々農業に興味があり、大学でも農学部で学んでいた莟さんは、湯島に通う内に“ここで暮らしたい”と思うように。そんな折、地域おこし協力隊の募集が目に留まり、湯島での活動をスタートさせた。​

トラクターの写真

移住する前から湯島へ足繁く通い、農業に取り組んできた莟さん。湯島暮らしをする中で、大幅なダイエットにも成功したとか(!)(写真:莟さん提供)

2019年に地域おこし協力隊としての活動が終了した後、「合同会社湯島屋」を立ち上げた莟さん。現在は、地域おこし協力隊時代にスタートした水産物の加工場「湯島のさち工房」や「ねころびカフェ」の運営、通販業務、猫の支援活動、ウェディング事業、上天草市フィルムコミッションの活動、シェアオフィス・移住体験施設「シーグラス」の管理・運営、空き家対策や再生エネルギー事業など、目を見張る活躍を続けている。その原動力となるものは一体なんだろう。

「僕が湯島に通っていた頃から、島の人たちは、“おかえり”と言葉をかけてくれるほど温かい存在でした。そこで、日が昇る頃に仕事を始めて、日が沈む頃に仕事を終えて、夕日を眺める。そんな島のリズムが自分には、妙にしっくり来たんです。次第に“島のために働きたい”という思いが芽生えていました。だから、地域おこし協力隊として移住することを決めた時には、すでに湯島に永住するつもりでした」と優しくも凛とした口調で語る莟さん。

試写会の様子の写真

2018年、湯島を舞台に撮った短編映画「島のシーグラス」の完成試写会でのひとコマ(写真:莟さん提供)

「ねころびカフェ」の外観の写真

「ねころびカフェ」の外観。天草エリアに点在するアコウの木がシンボルツリーだ(写真:莟さん提供)

活動当初こそ、研修などで全国に赴くことが多く、島の人々となかなか打ち解けられないこともあったというが、「地域おこし協力隊でなくても、湯島で働ける土台づくりを」と日々奮闘する莟さんの本気の姿勢は、すぐに島民たちに伝わったに違いない。

「今270人程が湯島に暮らしていますが、僕にとってはみんな家族や親戚のような存在です。島の人々は湯島のことが大好きでずっと暮らしてきたにも関わらず、高齢になるとどうしても医療提供の問題で湯島を出ないといけないのが現実です。この問題を解決する足掛かりとして、まずは、ソーラーパネルを島に設置して、電力を自活する事業に取り組みはじめました。将来的には、再生エネルギーの利益を活用した老人ホームを作ることを目指しています」。
そんなことをサラリと語る莟さんは、今では湯島の未来を一番に考える、島民たちの期待の星だ。

莟さんと島民の方との写真

島の人を家族や親戚のように感じているという莟さん。人とのつながりは湯島の大きな魅力の一つだ(写真:莟さん提供)

湯島に永住する。その固い覚悟と島の人への思いが、莟さんの多岐に渡る現在の活動を下支えしている。「湯島は、自分がこれからの人生を生きていくと決めた場所。湯島の住みやすさや暮らしを根本的によくして行こうという姿勢は、農業と同じです。未来を見据えて、自分の足元から少しでもいい方向に導いて行けるように、精一杯目の前のことに取り組んでいくだけです」。
そう語る莟さんの湯島への愛は、行政を巻き込み、さまざまな事業者からも注目を集めると同時に、島民一人ひとりの心に確実に届いている。こうした活動が大きなうねりとなって実を結んだ時、湯島は全国の島が抱える課題を根本から覆すような希望の島になっているのではないか。そんな未来を想像せずにはいられなかった。

莟さんと湯島の猫の写真

(写真:莟さん提供)

【Data】
合同会社湯島屋
所 上天草市大矢野町湯島627
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