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動物由来感染症を知っていますか?
動物由来感染症とは
動物由来感染症とは、動物から人に感染する病気の総称です。人と動物に共通する感染症として、「人畜共通感染症」とか「ズーノーシス」という言葉もありますが、厚生労働省では人の健康問題という視点に立って、「動物由来感染症」という言葉を使っています。
動物由来感染症には、人も動物も重症になるもの、動物は無症状でも、人が重症になるもの、その逆で人は軽傷でも動物は重症になる病気など、病原体によってさまざまなものがあります。
動物由来感染症が問題となってきた背景
人やもの(動物を含む)の国際的移動、土地開発等による自然環境の変化、野生動物のペット化等を背景として、いままで未知であった感染症が発生したり、忘れ去られていた感染症がその勢いを取り戻したりしています。
世界では、たくさんの新しい感染症が見つかっています。
ニパウイルス感染症等の新興感染症が次々と見つかっていて、その多くが動物由来感染症であることがわかってきています。それらの中には、感染力が強く重症化する傾向があり、有効な治療方がまだ開発されてないものもあります(エボラ出血熱、マールブルグ熱、ハンタウイルス肺症候群など)。
動物由来感染症は、これらの新興感染症が見つかる以前にWHO(世界保健機関)で確認されたものだけでも150種類以上あります。
日本に動物由来感染症が比較的少ない理由
世界中に数多くある動物由来感染症のすべてが日本に存在するわけではありません。日本には寄生虫による疾病を入れても数十種類くらいがあると思われます。この理由として次のことが考えられます。
- 地理的要因
日本は全体として温帯に位置しているため、熱帯・亜熱帯に多い動物由来感染症がほとんどなく、また島国であるため周囲からの感染源動物の侵入が限られいます。これら地理的要因のため野生動物由来感染症やベクター媒介性の動物由来感染症が比較的少ないと思われます。 - 家畜衛生対策等の徹底
日本では獣医学領域が中心となって家畜衛生対策、狂犬病対策を徹底して行ってきたため、家畜や犬を感染源とする動物由来感染症の中には現在の日本では見られなくなったものも多数あります。 - 衛生観念の強い国民性
日本人が、日常的な衛生観念の強い国民性であることも関係があるかもしれません。
動物由来感染症の感染経路
病原体の感染は、感染源である動物から直接人間にうつる直接感染と、感染源動物と人間の間に何らかの媒介物が存在する間接感染の2つに分けられます。
直接感染 | 咬まれる なめられる ひっかき傷 排泄物 |
狂犬病 パスツレラ症 猫ひっかき病 トキソプラズマ症、回虫症 |
|
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間接感染 | ベクター媒介 | ダニ 蚊 ノミ 巻き貝 |
ダニ媒介性脳炎 日本脳炎 ペスト 日本住血吸虫 |
環境媒介 | 水系汚染 土壌汚染 |
クリプトスポリジウム症 炭疽 |
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動物性食品媒介 | 肉 魚肉 |
O−157、サルモネラ症 アニサキス症 |
病名 | 病原体 | 感染様式 | 主な症状 | 国内発生 |
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狂犬病 | ウイルス | 感染して動物に咬まれる、唾液に接触する。 | 知覚麻痺、錯乱等、発症した場合100%死亡する。 | 無 |
ネコひっかき病 | 細菌他 | 咬まれる、引っかかれる。 | 全身倦怠、発熱、頭痛、関節痛、受傷部の丘疹等 | 有 |
ブルセラ症 | 細菌 | 感染動物の排泄物、血液、死流産胎児に接触。 | 悪寒、発熱、頭痛、関節痛、波状熱 | 有 |
レプトスピラ症 (ワイル病) |
細菌 | 感染動物の尿や汚染された水に接触又は間接接触。 | 全身倦怠、悪寒、発熱、頭痛、筋肉痛、重症で黄疸等 | 有 |
サルモネラ症 | 細菌 | 動物に直接・間接的接触。糞便に汚染された食品を不十分な加熱で飲食。 | 嘔吐、下痢、腹痛などの食中毒症状 | 有 |
カンピロバクター | 細菌 | サルモネラ症と同じ。 | サルモネラ症と同じ。 | 有 |
白癬(皮膚糸状菌症) | 真菌 (カビ) | 感染動物の皮膚や病変に直接・間接的に接触。 | 頭部白癬:脱毛、ふけ 体部股部白癬:かゆみ、小結節、水疱 |
有 |
トキソプラズマ症 | 寄生虫 (原虫) |
ネコの糞便中の原虫を経口的に摂取。 | 多くの場合無症状。抗体を持たない妊婦が感染した場合、胎児に障がいをもたらす | 有 |
回虫症 | 寄生虫 | 回虫卵に汚染された土、食品の経口的摂取。回虫が寄生している動物との接触。 | 小児に多く、発熱、肺炎などの症状。まれに眼球内移行、神経障がいなど。 | 有 |
Q熱 | 細菌 | 感染動物の排泄物の吸引、感染動物周辺の埃の吸引。 | 発熱(39.4~40.6℃)、頭痛、悪寒、筋肉痛など | 有 |
病名 | 病原体 | 感染様式 | 主な症状 | 国内発生 |
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オーム病 | クラミジア | 感染したトリの排泄物の吸引、経口的接触。 | 全身倦怠、悪寒、発熱、乾性咳、粘液痰を伴う呼吸器症状 | 有 |
クリプトコッカス症 | 真菌 (カビ) |
トリの排泄物や仁愛の吸引。 | 発症はまれ。病原体は肺から血行性に皮膚、中枢等に播種され、様々な症状を呈する | 有 |
病名 | 病原体 | 感染様式 | 主な症状 | 国内発生 |
---|---|---|---|---|
腎症候性出血熱 | ウイルス | 感染動物の排泄物に直接・間接的に接触、吸引。 | 発熱、出血傾向 | 有 |
野兎病 | 細菌 | 感染動物の血液、組織との接触、ダニ等の節足動物が媒介することもある。 | 悪寒、発熱、リンパ節腫脹、無痛性潰瘍など | 有 |
レプトスピラ症 | 細菌 | 感染したネズミの尿に 直接・間接的に接触。 |
全身倦怠、悪寒、発熱、頭痛、重症で黄疸、出血傾向 | 有 |
サルモネラ症 | 細菌 | 爬虫類の糞便で汚染された水槽水などとの直接・間接的接触。特にミドリガメ。 | 嘔吐、下痢、腹痛等の食中毒症状 | 有 |
動物からの病気の感染を防ぐため、こんなことに注意しましょう。
日常生活での注意事項
- 動物との過剰なふれあいはやめましょう。
- 動物への口移しによる給餌はやめましょう。
- 動物の食べた残りを食べるのはやめましょう。
- 動物と接した後は手洗いとうがいをしましょう。
- 動物の排泄物(ふん、尿)には直接ふれないようにしましょう。
- 動物の排泄物等(ふん、ごみ)を吸い込まないようにしましょう。
- 犬の登録と狂犬病予防注射を必ず受けましょう。
(狂犬病予防法では飼い主に義務付けられています。)
(注) 掲載している内容の一部は(株)社会保険研究所発行の「動物由来感染症ハンドブック2003年度版」、(社)予防衛生協会発行の「ご存じですか?動物から感染する病気」から引用したものです。