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土地収用Q&A
- Q1.起業者から土地調書(物件調書)作成のための立ち会いと署名押印を求められましたがどうすればよいですか?
- Q2.審理の期日に、どうしても都合がつかないのですが、どうすればよいですか?
- Q3.共有地で土地所有者が多数いるのですが、全員審理に出席しなければならないのですか?
- Q4.裁決申請書(明渡裁決申立書)に記載されている起業者の補償金の見積額に納得できない場合にはどうすればよいですか?
- Q5.損失補償の金額はどのように決まるのですか?
- Q6.収用される土地について、所有権やその他の権利について争いがある場合、補償金の支払いはどうなりますか?
- Q7.裁決に不服がある起業者、土地所有者及び関係人に対する救済措置及び起業者、土地所有者及び関係人が提起することができる訴訟について教えてください。
- Q8.事業計画に反対(公益性に疑問)ですが、収用委員会が事業計画の必要性などを判断するのでしょうか?
Q1.起業者から土地調書(物件調書)作成のための立ち会いと署名押印を求められましたがどうすればよいですか?
A1.土地調書、物件調書は審理における調査や確認の煩雑さを避け、その能率化を図るため、収用又は使用する土地及びその土地上にある物件に関する現況及び権利関係並びに記載事項についての異議等当事者の主張を記載し、これをあらかじめ整理しておくためのものです。
起業者は、土地所有者及び関係人を立ち会わせ、土地調書及び物件調書に署名、押印させなければならないとされており、署名、押印をしない場合、起業者は代わりに市町村長に立会及び署名、押印を求めることになります。
また、調書の記載内容に異議があるときは、その内容を付記して署名押印することができます。異議があるにもかかわらずそれを調書に付記しなかった場合には、土地調書及び物件調書の記載事項の真否について、真実に反していることを立証しない限り審理において異議を述べることができなくなります。
Q2.審理の期日に、どうしても都合がつかないのですが、どうすればよいですか?
A2.土地所有者又は関係人が審理において意見を述べる必要があるにもかかわらず事情により出席できないような場合には、意見書を提出することができます。
また、収用委員会あてに委任状を提出し、代理人を審理に出席させ、意見を述べさせることもできます。
Q3.共有地で土地所有者が多数いるのですが、全員審理に出席しなければならないのですか?
A3.土地所有者、関係人が多数である場合、その土地所有者、関係人は収用委員会の審理手続において当事者となる3人以内の代表当事者を選ぶことができます(代表当事者制度)。
選んだ後は、代表当事者だけが収用委員会の審理で意見を述べることができ、その他の者は、代表当事者を通じてのみ、意見を述べることになります。収用委員会も代表当事者に対してのみ、通知などを行うことになります。
なお、収用委員会は土地所有者、関係人が著しく多数であり、審理を円滑に進めるために必要な場合は、代表当事者を選定するよう勧告することができます。
Q4.裁決申請書(明渡裁決申立書)に記載されている起業者の補償金の見積額に納得できない場合にはどうすればよいですか?
A4.裁決申請があった旨の通知を受けた土地所有者又は関係人は、損失の補償に関する起業者の見積りに対する異議を、原則として裁決申請書等の写しの縦覧期間内に収用委員会へ意見書として提出することができます。
また、審理において新たに口頭又は意見書により損失の補償に関する自らの意見を述べることができます。
Q5.損失補償の金額はどのように決まるのですか?
A5.収用委員会において、損失の補償について、起業者、土地所有者及び関係人が申し立てた範囲内の額で、双方から出された意見や資料を踏まえて裁決します。
概略は次のとおりです。
1.土地に関する補償
ア.土地に関する補償
土地所有者に対する補償で、一般的にいう「土地価格」にあたります。
この価格は、近傍類地の取引価格などを考慮して決定されます。
※土地の価格固定について
土地に関する補償の額は、事業認定の告示時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動等に応じた修正率を乗じて得た額となります(物価変動によっては、事業認定告示時よりも下がることがあります)。
イ.土地に関する所有権以外の権利に対する補償
土地の収用により土地に関する所有権以外の権利が消滅する場合に、関係人に対して行われる補償で、土地に対する補償と同じ方法で算定されます。
なお、抵当権消滅に対する補償は、個別に見積り難いので、土地所有者に対する補償に含まれるのが通常です。
ウ.残地に対する補償
同一の所有者に属する一団の土地の一部を収用することにより残地が生じた場合の補償です。
- 残地補償
残地の価格が低下するなど、残地に関して損失が生じたときは、その損失が補償されます。 - 残地収用
残地を従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、土地所有者は残地の収用を意見書で請求することができます。 - 残地に係る工事の費用の補償
残地に通路、みぞ、かき、さく、その他の工作物の新築、改築、増築もしくは修繕又は盛土もしくは切土をする必要が生ずるときは、これに要する費用が補償されます。
また、この補償の全部又は一部に代えて、起業者が当該工事を行うことを意見書で要求することもできます。
2.土地に関する補償以外(建物等)の補償
ア.移転料の補償
収用される土地に建物などの物件があるときは、これを移転するために要する費用(移転料)が補償されます。
物件が分割されることとなり、その全部を移転しなければ従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、物件の所有者は、意見書で全部の移転料を請求することができます。また、移転料の補償に代えて起業者が物件を移転することを意見書で請求することもできます。
物件を移転することが著しく困難であるとき、又は物件を移転することによって従来利用していた目的に供することが著しく困難となるときは、その物件の収用を意見書で請求することができます。
イ.その他の補償
営業上の損失の補償、借家人補償など、土地を収用することによって通常受ける損失が補償されます。
※土地にある物件に関する補償の額は、明渡裁決時の価格で決められます(「価格固定」はありません)。
Q6.収用される土地について、所有権やその他の権利について争いがある場合、補償金の支払いはどうなりますか?
A6.収用委員会は、収用又は使用の裁決において、様々な理由により補償金を受けるべき土地所有者又は関係人の氏名及び住所を明らかにして裁決することができない場合、確知のできない事項について、「不明」として裁決することができます。
この場合、起業者は「不明」な範囲について補償金を供託することになりますので、土地所有者、関係人が自ら「不明」な状態を解決しなければ供託された補償金の払戻しを受けることはできません。
Q7.裁決に不服がある起業者、土地所有者及び関係人に対する救済措置及び起業者、土地所有者及び関係人が提起することができる訴訟について教えてください。
A7.裁決に不服がある土地所有者又は関係人は、国土交通大臣に対して審査請求をすることができます(法第129条)。ただし、損失の補償についての不服をその理由とすることができません(法第132条2項)。
また、起業者、土地所有者又は関係人は、損失の補償に関する訴えを除き、県(収用委員会)を被告とする抗告訴訟(取消訴訟)を提起することができます(法第133条1項)。
なお、損失の補償に関する訴えは、県(収用委員会)を被告として提起することはできず、起業者と土地所有者又は関係人との間の当事者訴訟として提訴することができます(法第133条2項)。
Q8.事業計画に反対(公益性に疑問)ですが、収用委員会が事業計画の必要性などを判断するのでしょうか?
A8.収用委員会では、土地の収用又は使用に係る「正当な補償の確定」に関する権限しか有していないため、事業計画に関する判断はできません。
そもそも土地収用制度は、憲法第29条第3項の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」との規定に基づき、「公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し、公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、もって国土の適正且つ合理的な利用に寄与すること」を目的として定められています。
土地収用法は、土地収用の手続きを、事業の公益性を判断する「事業認定」(憲法の「公共のために用ひる」ものであることを認定する手続き)と正当な補償額等を決定する「収用裁決」(憲法の「正当な補償」を確定する手続き)の2段階に分けて構成されています。
このうち事業の公益性を判断する事業認定については、収用委員会ではなく、事業認定庁である国土交通大臣又は都道府県知事の権限とされています(法17条)。
このため、事業計画など事業そのものの是非に係るご意見は、収用裁決手続における意見書や審理において主張することができません(法43条第3項、法63条第3項)。
なお、事業計画など事業そのものに係るご意見は、事業認定告示前であれば、事業認定申請書の縦覧期間内(公告から2週間)に意見書を提出できます(法25条第1項)。
事業認定告示後であれば、異議申立てや審査請求(法第130条第1項)及び事業認定取消訴訟(行政事件訴訟法第3条第2項)で争うこととなります。