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熊本県総合防災航空センター
熊本県総合防災航空センター|Kumamoto Prefecture Disaster Relief Aviation Center
熊本市の中心部から東へ20km、高遊原(たかゆうばる)台地に位置する阿蘇くまもと空港に隣接。
周囲の風景に溶け込むように、この施設はたたずんでいる。
2014年1月、「九州を支える広域防災拠点構想」を策定。老朽化した防災消防航空センターと警察航空隊基地の両施設に、大規模災害時に集結する災害関係ヘリの運用に必要な機能を加え一体的に整備することとなった。
国内外で活躍する建築家からプロポーザルにより設計者を選定。大空間の構成や耐震性が要求されるヘリ格納庫において、県産木材の活用に挑んだ。
九州における災害時の拠点として活用されるだけでなく、県産木材の利用拡大を先導する建物となることが期待される。
建築概要
九州における広域防災拠点として計画された、防災消防航空センターと警察航空隊基地の合築による「熊本県総合防災航空センター」である。
ここでは、防災消防航空センターと警察航空隊基地を用途上区分しつつ、公開性とセキュリティの両立する平面計画としている。両施設とも、ヘリコプター格納庫を中心に、その周りに整備資材庫や事務室を配し、日常的なヘリ整備や事務作業の効率化に配慮した。また、両施設間にブリーフィングルーム(大会議室)を設置し、大規模災害時の一体的な使用を可能としている。さらに、災害時における隊員の緊急出動や、支援機・支援車からの要員・物資の出入りを最短経路で効率よく行える、ひとつながりの貫通動線を計画している。
構造的には、県産木材とコンクリートを適材適所で組み合わせた、合理的な構造・構法による建築としている。建物下部の倉庫や事務室等は安定した性能を示す鉄筋コンクリート造、格納庫およびブリーフィングルーム上部は小径(120mm角程度)の流通材と既成接合金物を用いた木造としている。このことにより、高い耐震性能を確保しつつ、今後大架構木造建築を設計する上で、また県産木材の活用による木質化を推進する上で参考となる建築を目指した。
「防災」という、重要かつ困難な任務に関わる隊員の方々にとって、木を多用した空間が、親しみのもてる、穏やかな空気に満ちた場となることを期待している。
PHOTO(右下)/日本工業大学小川研究室
建築データ
名称/熊本県総合防災航空センター
所在地/菊池郡菊陽町大字戸次1698
主要用途/ヘリコプター格納庫
事業主体/熊本県、熊本県警察本部
設計者/小川次郎/アトリエ・シムサ+ライト設計
施工者/建築/岩下・熊野建設工事共同企業体
電気/宮本電気工事株式会社
機械/株式会社ミナミ冷設
敷地面積/10,347.07平方メートル
建築面積/1,940.22平方メートル
延床面積/1,909.55平方メートル
階数/地上1階
構造/木造一部鉄筋コンクリート造
外部仕上/屋根/ガルバリウム鋼板 瓦棒葺き
外壁/(低層部)コンクリート打放し 撥水剤塗布
(上部)ガルバリウム鋼板
施工期間/2016年10月~2017年10月
総工事費/756百万円
建築家プロフィール
小川 次郎(おがわ じろう)
1966年 東京都出身
1990年 東京工業大学工学部建築学科卒業
1996年 東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程満期退学
2004年 アトリエ・シムサ一級建築士事務所設立
2009年 日本工業大学工学部建築学科教授
主な作品
モミガラ・パーク、MUDMEN、HDY
受賞歴
2003年 代官山インスタレーション最優秀賞(EPSP)
2010年 日本建築学会作品選奨(日本工業大学百年記念館/ライブラリー&コミュニケーション・センター)
現場見学会・完成見学会
2017年11月5日 防災航空センター完成見学会
ヘリコプターを活用した情報収集体制の強化を図るため、防災関係ヘリの広域活動拠点として整備される熊本県総合防災航空センターは、昨年10月に着工し、本年10月末に竣工しました。
この度、熊本地震からの復旧・復興をテーマに今年度開催している「くまもとアートポリス建築展2017」の一環として、建築に携わる人材育成を目的に大規模な木造建築を学ぶ機会とするとともに、防災施設の内容を広く皆さんに知っていただくため、完成見学会を開催しました。
三連休の最終日での見学会となりましたが、約100名の方が参加され、最後まで熱心に見学されました。
見学者の皆様からは、設計された小川次郎氏(日本工業大学教授、アトリエ・シムサ代表)の意図を直接聞けたことや、普段なかなか入れないところまで見学できたことが貴重な体験であったと大変好評で、また、大規模な木架構に圧倒されたという声もいただきました。
▼見学会協力(敬称略)
設計者/アトリエ・シムサ、ライト設計、(構造設計)長谷川大輔構造計画
施工者/岩下・熊野建設工事共同企業体、宮本電気工事、ミナミ冷設
設計協力/坂田雅孝(木造設計アドバイザー)
2017年8月2日 防災航空センター現場見学会
屋根部分の木架構工事を見学
現在、建物の最大の見所となる屋根部分の木架構工事を行っていることから、広く皆さんに知っていただき防災意識の高揚を図るとともに、建築に携わる人材育成を目的に大規模な木造建築を学ぶ機会として、現地見学会を開催しました。
午前・午後合わせて約50名の方々にご参加いただき、猛暑の中での見学会となりましたが最後まで熱心に見学されました。ご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。午前の部においては、少々時間配分を誤るなど皆さまにご迷惑をお掛けする場面もありましたが、午後の部ではその反省を活かし、スムーズに見学会を進行することができました。
見学者の方々には大変ご満足いただき、特に、設計を担当された小川次郎氏(日本工業大学教授、アトリエ・シムサ)と構造設計を担当された長谷川大輔氏(長谷川大輔構造計画)からの説明や、木架構を組み上げる現場、組み上がった架構を間近で見学できたことが大変好評でした。
見学者の方々からは、完成見学会の開催を求める声も沢山いただきましたので、関係者と調整のうえ、是非とも完成見学会も企画して参りたいと思います。皆さまのご参加をお待ちしております。
最後に、見学会の開催にあたり、ご協力いただいた設計者、施工者の皆さま、大変お世話になりました。
▼協力
設計者/アトリエ・シムサ様、ライト設計様、長谷川大輔構造計画様
施工者/岩下・熊野建設工事共同企業体様、宮本電気工事様、ミナミ冷設様、ウッディーファーム様
設計者選定プロポーザル
審査結果について(提案イメージ追加公表)
8月26日(水曜日)に熊本県立大学においてプロポーザル公開審査で、技術提案提出者が作成した技術提案のイメージ図(模型)と提出された皆さんの集合写真(敬称略)を掲載します。
※敬称略
最優秀賞
小川次郎+アトリエ・シムサ(東京都)
左から
藍場弘充(小川研究室協力研究院)
大倉大輝(小川研究室所属学生)
大島一成(協力事務所/環境エンジニアリング)
小川次郎(日本工業大学小川研究室・アトリエ・シムサ一級建築士事務所)
長谷川大輔(協力事務所/長谷川大輔構造計画長)
田口 梓(小川研究室所属学生)
伊藤万里(小川研究室所属学生)
注意)提案書にある模型やパースなどは、提案内容をイメージ化したものです。今後、設計を進めていく中で形状が変更される可能性があります。
優秀賞
福島加津也+冨永祥子建築設計事務所(東京都)
左から
多田脩二
福島加津也
冨永祥子
金田雄太
佳作
陶器浩一(滋賀県)
上段左から
渡邉須美樹、陶器浩一、佐藤英治
下段左から
武政遼平、成瀬洋子、日紫喜峻朗
佳作
古森弘一建築設計事務所(福岡県)
前列左から
草場雄一郎
穴井健一
古森弘一
管健太郎(Arup)
後列左から
飯田智彦
笹谷真通(Arup)
奥村祐介(Arup)
橋迫弘平
右上四角中左から
武内茉緒(Y-GSA1年)
大隅三聖(有明高専4年)
白濱有紀
佳作
SALHAUS(東京都)
左から
佐熊勇亮
三原悠子
日野雅司
栃澤麻利
安原 幹
審査結果発表(2015年8月31日)
審査結果について
8月26日(水曜日)に熊本県立大学において、公開審査(参加者:約100名)を実施し、伊東豊雄審査員長らの選考により、最優秀賞に『小川次郎+アトリエ・シムサ』を決定しました。
また、最優秀賞受賞者と共同体を組み設計業務を行う県内共同事務所の選定につきましては、事務所の体制、実績及び配置予定技術者など総合的に判断した結果、(株)ライト設計を選考しました。
1 審査結果
提出登録名 |
所在地 |
|
---|---|---|
最優秀賞 |
小川次郎+アトリエ・シムサ |
東京都 |
優秀賞 |
福島加津也+冨永祥子建築設計事務所 |
東京都 |
佳作 |
陶器浩一 |
滋賀県 |
佳作 |
古森弘一建築設計事務所 |
福岡県 |
佳作 |
SALHAUS(サルハウス) |
東京都 |
建築士事務所名 |
所在地 |
---|---|
株式会社ライト設計 |
熊本市 |
2 審査員長講評
審査員長(伊東豊雄アートポリスコミッショナー)講評(PDFファイル:76KB)
3 事業概要
事業者:熊本県(消防保安課)、熊本県警察本部(通信指令課)
建設地:菊池郡菊陽町戸次字東中尾地内(阿蘇くまもと空港南東部に隣接する防災エプロン部分)
計画規模:延べ面積 1,910平方メートル
4 今後のスケジュール(予定)
設計:平成28年3月まで
工事:平成28年度~
5 審査状況
指名型プロポーザルの実施
(仮称)熊本県総合防災航空センター新築設計に係る指名型プロポーザル実施要項(抜粋)
1 趣旨
本県では、広域防災拠点として求められる機能について、熊本地域が保有しているポテンシャルや優位性を明確にし、熊本地域が真に九州における広域防災拠点としての役割を担っていけるよう、基盤や機能の充実・強化を促進することを目的として、平成26年1月に「九州を支える広域防災拠点構想」を策定した。
また、今年3月には、国がまとめた南海トラフ地震の応急対策活動の計画において、広域的な救助や医療活動の拠点となる全国5カ所の広域防災拠点の一つとして熊本空港が選ばれた。
このことから、九州の広域防災拠点として老朽化が進む熊本県防災消防航空センター及び熊本県警察航空隊基地並びに大規模災害時に集結する災害関係ヘリの運用に必要な施設(ブリーフィングルーム、隊員の活動拠点等)を一体的に整備し、防災関係ヘリの広域活動拠点とするとともに、広く情報を発信し、県民の防災意識と防災知識を向上させるために、本要項に基づき指名型プロポーザルを実施する。
なお、このプロポーザルは、後世に残り得る文化的資産の創造と地域の活性化を目指して熊本県が推進している「くまもとアートポリス」の参加事業として実施する。
2 プロポーザルの概要
- 名称 (仮称)熊本県総合防災航空センター新築設計に係る指名型プロポーザル
- 方法 指名型プロポーザル
- 主催 熊本県
- 事務局 くまもとアートポリス事務局(熊本県土木部建築住宅局建築課内)
- スケジュール
提出要請 平成27年7月14日(火曜日)
質疑受付 7月14日(火曜日)~7月27日(月曜日)
現地見学会 7月21日(火曜日)
質疑回答 7月31日(金曜日)
提出締切 8月19日(水曜日)
公開審査 8月26日(水曜日)
3 審査員
審査員長 伊東豊雄(建築家、くまもとアートポリスコミッショナー)
審査員 桂 英昭(建築家、くまもとアートポリスアドバイザー、熊本大学准教授)
末廣香織(建築家、くまもとアートポリスアドバイザー、九州大学准教授)
曽我部昌史(建築家、くまもとアートポリスアドバイザー、神奈川大学教授)
松岡大智(熊本県総務部消防保安課長)
徳永信之(熊本県防災消防航空センター所長)
今村光宏(熊本県警察本部生活安全部通信指令課長兼航空隊長、警視)