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湯の香橋
芦北町湯浦地区は古くは海から船で訪れる天草の人達で栄えた温泉町である。
その町のシンボルとなっていた朱色に塗られた木造の太鼓橋が老朽化したため、新しく掛け替えようという計画であった。
それは、交通システムの変化によって人の流れの変わってしまった温泉町に、再び人のにぎわいを取り戻そうという長期計画の第一歩でもある。
近代以降の橋は自動車や汽車を渡すといった機能性や、早く、そして安くという経済合理性のみを主眼として作られ続けてきた。
しかし、ここではそれとは全く逆の、歩いて渡ることが純粋に楽しみであるような、そんな橋が求められ、つくられた。
建築概要
湯の香橋の設計の主眼は、新しい物語を生みだすような橋をつくることであり、次の4つのポイントに留意しながら設計が進められた。
ひとつは水面まで降りていくことができ、水を身近に感じることができるようなテラスを設けること。2番目に手摺をフロスト・ガラスとし、太陽の光の変化や橋を渡る人のシルエットをさながら障子越しに見るように演出する。3番目には、橋のデザインとして照明効果を最初から考慮すること。橋の床版の端部に照明を組み込み、グレーチングの床、フロスト・ガラスの手摺、そして橋の下の水面に光が廻るように計画し、タ暮れの散歩を楽しめるものとする。
Photo:宮井政次、「新建築社」写真部
建築データ
名称 | 湯の香橋 |
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ふりがな | ゆのかばし |
所在地 | 葦北郡芦北町湯浦 |
主要用途 | 遊歩橋 |
事業主体 | 芦北町 |
設計者 | 岸和郎 |
施工者 | |
建築 | 日本ピー・エス・コンクリート |
電気 | 平田電気 |
橋長 | 40.8m |
幅員 | 3.34m |
構造 | プレストレストコンクリート |
仕上 | |
手すり | ポリカーボネート樹脂板フロスト加工 |
床 | RC洗い出し、両側部はグレーチング |
施工期間 | 1990年12月~1991年3月 |
総工事費 | 91百万円 |
受賞データ
1991年 | くまもと景観賞テーマ賞 |
建築家プロフィール
岸 和郎(きし わろう) | |
1950年 | 神奈川県生まれ |
1975年 | 京都大学工学部建築学科卒業 |
1978年 | 京都大学大学院工学研究科修了、黒川雅之建築設計事務所入所 |
1981年 | 岸和郎建築設計事務所設立、京都芸術短期大学造形学科専任講師 |
1990年 | 同助教授 |
主な作品 KIM HOUSE、洛北の家、AUTO LAB、都築Flat、京都科学・開発センター など |
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受賞歴 | |
1983年 | 商空間デザイン賞優秀賞 |