本文
熊本県立農業大学校学生寮
熊本の農業を担う若者たちが集団生活を通して、豊かな人間性とかけがえのない友情を育んでいる学生寮。
中庭を囲む広場型の配置のテーマは「共同性」。
2年間共に暮らす学生たちの和を生み出す形になっている。
建物は県産材をふんだんに使ったスケールの大きな木造建築。
また、壁や天井にも有明海の貝灰や阿蘇の火山灰土を使うなど、将来は農業に従事する学生たちが暮らす場にふさわしく自然との共生を感じさせるものとなっている。
4人の建築家がプロジェクトを組み「学生たちの誇りとなる建物を」という思いでつくりあげた作品である。
建築概要
まず考えたのは、全体の配置をどうするかだった。既存の寮に泊まり込み、あれこれ話を聞いているうちに思ったのは、”共同性”ということだった。学生たちにとって、この寮での二年間が、生涯最後の共同の場となり、卒業後は自営農業者として生きていくことになる。
共同性の濃い配置計画として、中庭・回廊式を採ることにした。原始時代にはじまりヨーロッパの修道院などなど、人類史上これまで広く活用されてきた配置にほかならない。草(芝)、木(カンキツ類)、石(白砂)、花(野菜花)をテーマとした四つの中庭の周りに、延長400メートルの回廊が巡り、200人100室の寮室が囲む。
建物については”熊本の木を使う”、というのが県の最初からの方針であり、設計者側としても望むところ。県内の林産地を回り、杉・桧・赤松・栗の四種を適材適所で使っている。学校敷地内にも桧の立木があり、伐り出し、記念とお守りの意味を込め、玄関に立てて使っている。木材の表面仕上げは、自然素材ならではの非均質性を生かすため、曲面カンナという珍しいカンナを振るい、より凹凸の付くよう、ヒビ割れや節が目立つようにした。
内部は、壁から天井まで、有明海産の貝殻を焼いて作った貝灰(漆喰)を塗り回し、また一部には敷地から掘り出した阿蘇の火山灰土を使っている。木材も漆喰も土も、これすべて阿蘇の恵みなのである。
建築データ
名称 | 熊本県立農業大学校学生寮 |
---|---|
ふりがな | くまもとけんりつのうぎょうだいがっこうがくせいりょう |
所在地 | 合志市栄3803 |
主要用途 | 学生寮 |
事業主体 | 熊本県 |
設計者 | 藤森照信+入江雅昭+柴田真秀+西山英夫 |
施工者 | |
建築 | 冨坂建設、三和建設、生田工務店、七城建設、日動工務店 |
電気 | 日建電設、藤原電工、西日本電工、健栄テック |
機械 | 西部管工土木、千代田工業、西山商会、蘇陽施設産業 |
敷地面積 | 24,047.22平方メートル |
建築面積 | 4,175.49平方メートル |
延面積 | 5,409.51平方メートル(寄宿舎棟5,297.87平方メートル、プロパン庫29.81平方メートル、ゴミ置場81.83平方メートル) |
階数 | 地上2階 |
構造 | 木造+鉄筋コンクリート造 |
外部仕上 | |
屋根 | アルミ亜鉛メッキ鋼板t=0.35立ハゼ葺、一部銅板t=0.35立ハゼ葺 |
外壁 | 杉板t=15貼、一部銅板貼及び色モルタル塗 |
施工期間 | 1999年7月~2000年3月 |
総工事費 | 1,649百万円 |
受賞データ
2001年 日本建築学会賞(作品)
建築家プロフィール
藤森 照信(ふじもり てるのぶ) | ||
1946年 | 長野県生まれ | |
1971年 | 東北大学工学部建築学科卒業 | |
1978年 | 東京大学大学院工学系研究科建築学専門課程修了 | |
1996年 | 東京大学教授 | |
主な作品 |
||
受賞歴 |
入江 雅昭(いりえ よしあき) | |
1957年 | 熊本県生まれ |
1980年 | 熊本大学工学部環境建築工学科卒業 |
1991年 | IGA建築計画設立 |
主な作品古閑邸 |
|
受賞歴 | |
1998年 | 第4回くまもとアートポリス推進賞選賞 |
1999年 | 第3回JIA熊本住宅賞選考委員賞 |
柴田 真秀(しばた まさひで) | ||
1958年 | 熊本県生まれ | |
1982年 | 法政大学工学部建築学科卒業 | |
1992年 | UL設計室設立 | |
主な作品作品百道の住宅 | ||
受賞歴 2000年 第4回JIA熊本住宅賞奨励賞 |
西山 英夫(にしやま ひでお) | |
1959年 | 熊本県生まれ |
1982年 | 熊本工業大学建築学科卒業 |
1983年 | 神戸大学工学部環境計画学科研修生修了 |
1991年 | 西山英夫建築環境研究所設立 |
主な作品COUNTRY SCAPE | |
受賞歴 | |
1998年 | 第2回JIA熊本住宅賞最優秀賞 |
PHOTO:宮井政次