ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 ホーム > 組織でさがす > 知事公室 > 広報グループ > 平成25年12月19日 知事臨時記者会見

本文

平成25年12月19日 知事臨時記者会見

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0006771 更新日:2013年12月19日更新

知事臨時記者会見

日時:平成25年12月19日(木曜日) 14時10分から
場所:知事応接室

発言要旨

12月19日に知事が水俣病問題に関して記者会見を行いましたその発言要旨は以下のとおりです。

1.はじめに

今回、水俣病問題について、私の思いや環境省との交渉状況などについてご説明させて頂きます。

水俣病問題に対する私の基本スタンスは県議会の一般質問において述べさせて頂きました。

水俣病問題は私の政治の原点であり、熊本県政において今もなお最重要の政治課題であります。

私は、先日の一般質問において、キューバ危機におけるアメリカのケネディ大統領の例を挙げましたが、政策決定によってその後の国や社会の明暗は大きく左右されます。水俣病の発生と拡大の政治過程もその一つであります。

再度申し上げますが、水俣病が明らかになった昭和30年代、国と県の初動がいかに大事であったかを、私は今、知事として痛感しております。

水俣病を引き起こした原因企業であるチッソが、責任を免れないのは当然であります。しかし、私たち行政を担う者も、被害拡大を防げなかった責任を自覚し、水俣病の影響を受けた全ての方々に寄り添い続けなければなりません。

このような認識のもとで私は水俣病問題に取り組んでまいりました。

2.これまでの経緯

そこで、今日にいたる経緯について、まず簡単にご説明いたします。

4月の最高裁判決において、水俣病認定審査における総合的検討の重要性が指摘されました。

この判決を受け、私は、今後の対応のための方針を次の3つに整理し、国との交渉においても、それを求めてきました。その基本的考え方とは、

第一に、最高裁判決を最大限尊重すること、

第二に、公健法の世界は閉じてはならないこと、

第三に、公健法上の補償制度についても検証が必要だということです。

具体的には、まず、私は、判決直後に総合的検討の必要性を環境省に伝え、早速、その具体化を求めました。

その後、県としてもその具体化の作業においては、認定の実務に当たってきた者として、協力してまいりました。

その間に7月、環境省に対して総合的検討及び補償制度の検証に関して要望書の提出も行いました。

一方、今回、国の不服審査会から県の認定申請棄却処分に対して、認定相当との裁決があり、これを受けて私は、直ちに認定を行いました。

また、先日(12月12日)、環境事務次官とお会いし、私の考えを伝えて参りました。

このような経緯を踏まえ、ここで、熊本県知事としての考えを申し上げたいと思います。

3.総合的検討

まず、総合的検討についてですが、これに関しては、環境省からの通知が、いつ、どのような形で示されるかまだ分かりません。

これまで、県としては、総合的検討について、実務者の立場から環境省に協力し、最高裁判決を踏まえた内容となるよう、主に次のような観点での意見を申し上げてきました。

私は、感覚障害のみの水俣病を否定する立場も、感覚障害があれば直ちに水俣病と認定できるという立場も取りません。

感覚障害のみの水俣病を否定する立場は「感覚障害のみの水俣病が存在しないという科学的な実証はない」とされた最高裁判決と矛盾します。

他方、感覚障害があれば直ちに水俣病と認定できるという立場も取りません。最高裁判決は、「個別的な因果関係が諸般の事情と関係証拠によって証明され得るのであれば、……水俣病である旨の認定をすることが法令上妨げられるものではない」として、因果関係を個別に判断することの重要性を指摘しています。疫学要件と併せて因果関係を丁寧に判断することなくして、水俣病と認定することはできないと考えます。

必要なのは、「感覚障害のみだから即、水俣病でない」とか、「感覚障害があるから即、水俣病である」とかいった考え方でなく、感覚障害のみの場合も含めて52年判断条件の組合せに合致しない者であっても、水俣病であるかどうかを丁寧に判定することだと考えます。

また、52年判断条件を見直すべきだという声があります。52年判断条件は、先の最高裁判決により否定されたという考えです。

しかし、最高裁判決では「昭和52年判断条件は、……多くの申請について迅速かつ適切な判断を行うための基準を定めたものとしてその限度での合理性を有する」と判示し、52年判断条件に一定の合理性を認めています。

その上で、最高裁判決では、52年判断条件について、「症候の組合せが認められない場合についても、……諸般の事情と関係証拠を総合的に検討した上で、……個別的な因果関係の有無等に係る個別具体的な判断により水俣病と認定する余地を排除するものとはいえない」と判示し、症候の組合せが認められない場合についても、52年判断条件の下で総合的検討を行うべきことを指摘しています。

したがって、私が今述べた「感覚障害のみの場合も含めて組合せに合致しない者であっても、水俣病であるかどうかを丁寧に判定する」ということは、総合的検討が必要だとする52年判断条件の下で可能だと考えます。

そのため、私は、最高裁判決に沿った総合的検討の具体化に協力してきました。

通知自体は、最終的には国の責任で発出されるものです。それが、私が申し上げた内容に沿ったものであれば、また、状況さえ整えば、今回、発出される総合的検討通知の下で、今述べた考え方により運用を行っていくつもりです。

しかし、現状では、次の大きな2つの理由から、通知が発出されたとしても、県として、責任を持って認定業務を行うことは極めて厳しい状況にあります。

4.国の二つの機関における考え方

一点目は、県議会での答弁でも申し上げましたが、国の二つの機関において考え方が整理されていないということです。

国の公害健康被害補償不服審査会が行った裁決については、私は裁決書が届いた直後に、速やかに認定を行いました。ところが、環境省は認定を行った11月1日に「裁決の拘束力は後の行政行為に及ばない」「今回の裁決は個別事案であり、参考事例である」との認識を示しました。

しかし、今回の裁決には、委員の全員の合議によって従前の裁決を変更する旨の記述があります。したがって、今後、国の不服審査会は、県の処分について、今回同様の裁決をすることが当然に考えられます。

県は、国の示した基準や考え方に基づき認定業務を行う必要があります。しかし、一方で、国の不服審査会の裁決に従わざるをえない立場にもあります。このことを全く考慮せず、審査会の裁決を単に「参考事例」として片付けようとする環境省の姿勢は、水俣病問題について、十分な責任を果たしているとは言えません。

環境省の北川副大臣も、「考えをまとめる」と記者会見で述べておられます。しかしながら、今日まで何らの表明もあっておりません。

現状は、国の二つの機関の判断が食い違っています。このような状況では、県として適切な認定業務を行うことは出来ないと言わざるを得ません。国がそのような状況であれば、認定業務を行う熊本県、鹿児島県、新潟県、新潟市の4県市において判断が食い違うことも起きかねません。

国における矛盾した見解の統一は、当の矛盾を引き起こした国においてなされるべきであります。国において審査の実績を積み重ね、その積み重ねにより、本県を含む関係県市が統一した運用をできるようにすべきです。

5.公健法上の補償制度

認定業務を行うことができないとする二点目の理由は、公健法上の補償制度の検証に国が応じないことです。

7月29日の要望において、私は国にその検証の必要性を訴えました。

水俣病と認定された方に対する補償は2つあります。一つは原因企業チッソとの補償協定に基づくものです。もう一つは公健法に基づくものです。いずれも約40年前に作られてから、現在まで大きな制度の見直しはなされていません。

確かに、これまでは、認定をされた全ての方がチッソとの補償協定に基づく請求をされています。しかし、選択肢の1つとして公健法上の補償制度もあります。現に公健法上の請求事例もありました。

したがって、公健法上も、より円滑に運用しやすいものとなるよう検証が必要ではないかとの思いを強く致しております。法定受託事務を執行している県としては、認定業務を行う以上、公健法上の補償制度もしっかり確立している必要があります。

そのことを環境省へ申し入れましたが、環境省は積極的に対応するという姿勢を示しておりません。

私が掲げる3つの基本的考え方に「公健法の世界は閉じてはならない」とあります。これは公健法がより円滑に運用しやすいものとなり、公健法の枠組みにおいて、原因企業・国・県が水俣病の影響を受けた全ての方々に対して、これからもずっと開かれていることをお約束することであります。

6.国に求めること

以上2点、すなわち、(1)国の二つの機関において考え方が整理されていないこと、(2)公健法上の補償制度の検証に国が応じないこと、により、私は、現状では、県としては認定審査業務を続けていくことは非常に困難であると判断しています。

とはいえ、現に申請をされ、結果を待っている方々もおられます。

一方、水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法により、環境大臣に対しても認定申請することができることになっております。

したがって、国においては、速やかに臨時水俣病認定審査会(臨水審)を設置し、国として責任を持って認定審査を行うよう、これまで県から国に対して強く求めてまいりました。

一昨日、臨水審をめぐって一部に報道がありましたが、経過としては今申し上げたとおり、県から国へ提案をしたものです。

この結論に至るまで、私は熟慮に熟慮を重ねました。

今、申請を行っている方々を、国に委ねていいのだろうか、自ら結果を出すことが知事としての責任ではないのか、と思い悩みました。

しかし、課題がある以上、県として認定業務を行うことはできません。

このため、やむにやまれず、国のほうでの審査を求めたいと思います。

本県としては、環境省に臨水審の設置、開催を正式に要求いたします。

これが、本日の記者会見のポイントです。

7.最後に

最後になりますが、今一度、私の思いを述べます。

第一に、最高裁判決を最大限尊重すること、

第二に、公健法の世界は閉じてはならないこと、

第三に、公健法上の補償制度についても検証が必要だということです。

記者各位におかれましても、これまでの長い水俣病問題の歴史を振り返り、様々な思いが去来することと思います。

被害者のみならず、熊本県民みなが苦しんできた水俣病問題に対して、私たち行政を担う者は、被害拡大を防止できなかった責任を自覚し、水俣病の影響を受けた全ての方々に寄り添い続けなければなりません。

さらには、特措法やこれまでの政治決着に何とか応じてくださった方々の思いも、決して忘れてはならないと思っております。

今後とも水俣病問題の解決に全力で取り組んでまいる覚悟であります。以上で私の会見を終わります。