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第8回 「文書とかを撮影するときに使うアレ(押さえ)」

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0056473 更新日:2020年10月1日更新

熊本県立美術館だより「View Vol.160」より

 我々学芸員は、よく写真を撮影します。アイドルの水着姿とかだったら良いのですが、生まれてこの方そんなものを撮影したことはございません。我々が撮影するのは主に絵画や彫刻、そして文書などの資料です。
 個人的な事をいきなり書かせていただくのもナニなのですが、私資料類が大好き。画家さんのご遺族宅などでの調査で、たまたま画家さんの自筆メモが出てきたとき、特にそれが若い頃に書いた小説とかポエムだった日には、作品そっちのけで、「うわぁ~♡」とか「うひょっ☆」とかいう奇声をあげながら読みふけってしまいます。ちなみに、こういった症状をお持ちの美術館学芸員、時折おられるそうでして、業界内では資料萌え」というのだそうですよ。本当かどうかは知りませんが。
 いや別に、画家さんの恥ずかしい一面をご紹介したいからじゃないんです。作品だけでなく、制作にまつわる資料を一緒に展示した方が、作品の裏側にある画家の存在とか時代とか、そういうものがよりはっきりと浮かび上がってくるように思えるからです。そういったものは積極的に展示して、見ていただこうというのが私のスタンス。ならば、記録をとるために、そしてカタログに掲載するためにも、資料類はきちんと撮影する必要があります。そこで大活躍するのが「文書とかを撮影するときに使うアレ(押さえ)」なのです。
 この道具、某Y代市立博物館のT学芸係長様が独自に開発し、県内各美術館・博物館に普及させたものでして、業界内の地下ルートのみで入手可能という極めてレアなブツです。この道具を構成するのは、(1)単三電池×2本、(2)先端が丸めてある縫い針もしくは木製の楊枝、(3)電池二本分と同じ幅のプラスチック板、(4)布テープ、以上の4つです。構造は極めて簡単。(1)の下に(2)が貼り付けられた(3)が敷いてあって、(4)でグルグル巻きにされております。ハイ、もう意味がわからないでしょうから写真をご参照下さい。こんな感じです。

写真:文書とかを撮影するときに使うアレ

 我々が撮影する文書などの資料類は、ピラピラした一枚紙だったり、薄いパンフレットだったりします。一見撮影しやすそうなこれらの資料、実は結構難物でして、ピラピラしているだけに紙の端が浮いてしまったり、折り目がつきすぎて平面的に撮影できないことが多々あるのです。
 そういう時に一般的に用いられるのが、「ケサン(卦算)」と呼ばれるガラスの延べ棒。これを資料の端に置けば、とりあえず資料は平面的になります。しかしそこにも問題が。例えばそれが、展覧会カタログなどに掲載するための写真撮影だった場合、どうしてもケサンが写り込んでしまい、いかにも「この資料、ペラペラしてたんでここで押さえたんで~す」という感じが出すぎてしまうのです。せっかくのカタログですもの、資料はできるだけ隅から隅まで見せてあげたいのが親心というもの。
 ここで例の「文書とかを撮影するときに使うアレ」が登場です。この針の部分を文書の四隅に置いてやるとアラ不思議!ペラペラした文書が電池の重みで、目立たないかたちで押さえられるのです。針の先が写ったとしても、そこは印刷会社さんの超絶テクニックで消して貰えたら、もう万全。資料の平面性はさり気なく担保されるわけです。
 もっともこの道具、丸めてはあるものの、尖った先端部を有するものですから、ご所蔵者には最初にお断りをしておくことが肝要です。本コラムに度々登場する元E青文庫のM大先生現・G県立女子大講師)あたりでしたらもう慣れたものでして、「ここはアレ使いましょう、アレ。あの文書とかを撮影するときに使う電池の押えですよ。」と、自ら率先して「文書とかを撮影するときに使うアレ」の使用を促してくれます。
 さて、このあたりでみなさんお気づきと思いますが、この道具、便利な一方で正式名称が無いということが一番の弱点。このままではいけないという義憤にかられて、私の方で正式名称を考えてみました。候補としては、強そうなイメージで(1)「コスモタイガー」、(1)にスタイリッシュさを加味したイメージで(2)「エグザイル」、さらに攻撃的かつ和風のイメージで(3)「鬼の爪」、おさえるイメージで(4)「江夏」の計4つ。
 このような案のもと、脳内で現場の様子をいろいろとシミュレーションしてみましたが、(4)ですと調査中に突然元野球選手の名前が出てくることになるので脳内却下。(2)ですと、あのグループは特定の企業ですし、なぜジャニーズ初代)や劇団四季ではないのか?といった、いわば公務員としての公平性に関わる問題に発展しかねないのでこれも脳内却下。であれば、(1)「コスモタイガー」か、(3)「鬼の爪」あたりが良さそうです。
 こうした考えに至り、喜々としてViewの編集担当であらせられるS主任学芸員に相談してみたところ、薄笑いを浮かべながら「・・・“押え”でいいんじゃないですか」との、至極真っ当な御返事。一抹の寂しさをおぼえた、38歳の春でした。あと3年でバカボンのパパと同年齢です
〔次回は「ヘルメット」です〕

(林田龍太)