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第5回 「おみやげ」─郷土色を重視したい道具です─

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0056468 更新日:2020年8月1日更新

熊本県立美術館だより「View Vol.151」より

 突如再開するこのコラム。まず、中断と復活の経緯についてご説明せねばなりますまい。要は「画家たちの上京物語展」準備のため中断せざるを得なかったというのが実情なのですが、その間にも「もう書かないの?」とか、「クビになったの?」といったお言葉をいくつも賜りました。特に、同展にもご出品頂いた某I県にある美術館の学芸員・I野様からは、借用に伺う数日前に次のようなメールを頂きました。
「来週こちらにいらっしゃると、お聞きしました。全く関係ないのですが、貴館の美術館だよりに連載中の、林田さんのエッセイが面白く、毎号楽しみに拝読しております。」
 感涙にむせぶと同時に、「本当に関係ない・・・」と思った次第です。そんな皆様からの後押しもありまして、不死鳥の如く復活してみました
 というわけで、今回のテーマは「おみやげ」です。他館やご所蔵者宅での作品調査、出品交渉、借用・返却など、美術館の業務では、他所様のお世話になることが多々ございます。そんな時、我々はおみやげ(お菓子です)を持って行くようにしております。
 このように書きますと、「公務員が物品の授受とは!」とお叱りを受けそうですが、相手は多忙な日々を送られている方々。実際、他館で対応して下さった方の目が明らかに死んでいることもございました。そんな方々のお時間を頂くのに、言葉だけではあまりに申し訳ない。「ありがとうございます」、「お急がしい中すみません」、「お前も蝋人形にしてやろうか!」等々。おみやげは、そんな気持ちの表現形式なのです。うっかり忘れることもあるのですが。
 なお、余程の数量を必要としない場合、おみやげは自腹で購入しております。最近では方針により受け取って下さらない館もございますが、是非受け取って頂きたい。でないと、自腹のおみやげを黙々と食べる30代男性がビジネスホテル(喫煙・シングル)に現出することになりますので。
 さて、おみやげのお菓子といっても様々ございます。地元で評判のパチシエーが作ったマカロンだとか、プリンス・エドワード島のラズベリーを使ったパイなどでしたら、女性の方は喜ぶかもしれません。しかし、地方の美術館に勤務する身であれば、その土地らしさは重視したいところ。選ぶのならやはり「熊本城の●」とか、「肥後●●」といった名前の、郷土色あふれる和菓子でしょう。
 お菓子の選択は、我々の印象にも影響します。仮に他館に借用にうかがった際に洋菓子をお渡ししたとしましょう。この場合、我々が相手方に与える印象を言葉にすると、以下の様な感じになるのではないでしょうか。
「やあ、僕は熊本の学芸員(キュレーター)なのだけれども、おみやげに地元で評判のお菓子を持ってきたよ。このマカロン、おフランス帰りのパティシエが作ったのさ。ところで、君のところの所蔵品、ウチの館に貸してくれないかな?」
なんとも高踏的な印象。これが郷土色あふれる和菓子ですと、
「お、オイは熊本の学芸員(ガッゲーイン)ですばってんが、地のうまかモンばみやげに持ってきたとです!だけん、ぬしゃんトコの絵ば貸して欲しかとです!」
といったように、非常に低姿勢かつ剛毅木訥な印象を与えることになるでしょう。これなら、相手もすんなりと作品を貸してくれることうけあいです。
 しかし、あまり郷土色を重視しすぎると、女性の好みに直結するとは言い難い、いわばモテないおみやげとなってしまうこともままあります。ところが、最近の熊本では極めて便利なシステムが開発されました。そう、熊モンです。彼奴(きゃつ)の威力は絶大です。パッケージに彼奴(きゃつ)が印刷されるだけで、お菓子は豊潤な郷土色に包まれるのです。しかも中身はクッキーやチョコレート。モテないはずがありません。相手が女性とフんだ場合、私はできるだけ彼奴(きゃつ)を利用するようにしています。お渡しした時に、「わぁ、熊モンだぁ♡」なんて声が聞こえた日には、もうこっちのもんです(何が?)。
 そういえば、当館のY田主任学芸員からこんな話を聞いたことがありました。
「この間上野の某美術館に借用に行った時、おみやげ忘れてさ。結局買ったよ。上野で。」
世界を動かすのは、こういった方なのかもしれません。

次回は「薄葉紙」です

(林田龍太)