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路木ダムについて

更新日:2009年6月3日

路木ダムについての知事発言要旨を掲載します。

(平成21年6月3日、6月定例県議会提出議案説明時)

1.はじめに

これより、路木ダムに関するご説明をさせていただきます。

まず、路木ダム事業について考えるとき、天草の特性や歴史について、述べる必要があります。多くの島々から成る天草地域には、小さな河川しかありません。また、その河川も急峻で、降った雨は、そのまま急激に海に流れてしまいます。そのため、天草には度重なる洪水と渇水の歴史があります。

近年においても、こうした状況は続いております。中でも、慢性的な水不足に悩んでおられる牛深地区、未だ近代的な水道施設が普及していない地域を含む河浦地区は、安定的な水の供給を強く望んでこられました。それに対し16年前、熊本県は、治水・利水を兼ね備えた路木ダムをつくることが、最も効率的、効果的な手法であると判断し、今日に至っております。

私が知事になってからも、地元天草市長、市議会から、路木ダム建設促進の要望をいただきました。地元牛深地区・河浦地区の区長会からも1万2千人余りの署名をいただき、路木ダムに対する、今なお変わらぬ思いを感じています。

私は、この路木ダムについての議論の過程で、現地に足を運び、また、県庁で多くの方々の要望も受けました。ある主婦の方は「私たちは、普通に水のある生活がしたいだけなのです」と話されました。水産加工業の方は「清潔な魚の切り身を市場に出すためにはたくさんの水が必要なんです」と、訴えられました。その言葉のひとつひとつが、私の心を大きく揺さぶりました。

2.問題の所在

そのように地元からの要望が強いダム建設に、いま疑問が投げかけられています。先週も、全国ネットのテレビ番組で路木ダムが取り上げられました。そもそも路木ダムがなぜここまで問題になってしまったのか。私は、知事として、県民が抱く疑念に対し、誠実に答えなければならないと思っています。

では、県民の路木ダム建設に対する疑念はどこにあるのでしょうか。まず、県は昨年度の、公共事業再評価監視委員会における説明の中で、路木川ではない写真を使用するという過ちを犯しました。昔から使われてきた写真が、担当者にそのまま引き継がれてきていました。調査の結果、別の川の写真であることが判明いたしました。当委員会で訂正を行ったとはいえ、このことで県民の不信を招いたことは誠に申し訳なく思っており、深くお詫びしたいと思います。

次に、「浸水被害はなかったのではないか」という疑念です。路木川河川整備計画に、約100棟の浸水被害の記載があります。残念ながら、公文書の保存年限を超えたため、当時の資料が失われ、具体的な浸水被害の規模、地域を特定することができません。天草市の、聞き取り調査によると、路木地区で何軒とは正確に確認できないものの、浸水被害があったことは確認できたと結論づけています。したがって、何らかの洪水被害があり、それをきっかけにダム建設計画が作られたことは確かであったと思います。

しかし一方で、私はこの天草市の調査結果の公表後も、県民は十分には納得していないと感じました。再評価監視委員会からも「今後とも十分な説明を行い、事業への理解を深めるように」とのご意見をいただいております。

ダム建設を決めた当時から16年が経過しており、さらに治水事業のきっかけとなった記録を、直接に示せない以上、私自身が、ダム建設事業の内容を再確認し、しっかりと県民の皆様にご説明する必要があると考えました。

行政の長としての知事の立場からは、推進している事業を滞りなく完成させることが大きな役割です。一方、県民の代表としての知事の立場からは、これから行政がやろうとすることが、真に県民の幸せのためになるのかどうかという観点から、事業の内容を検証することが大切だと考えています。

そこで、私は村田副知事に、ダムを建設することによって得られる効果と費用の検証、ダム以外の代替策との比較等の確認作業を行うよう指示しました。そして、6月議会までには、私の考えを丁寧に説明する機会を設けたいという意向を表明いたしました。今日がその日であります。

これより路木ダム事業に関する確認作業の結果を申し述べます。確認作業の詳細な内容は、報告書としてとりまとめられています。ここでは、その要点を4つの観点から申し述べます。

3.検証結果

(1)利水

まずは、事業の背景となっている利水です。牛深・河浦地区は、河川の水や地下水等による水資源の開発がとても困難で、渇水の被害を最も受けやすい地域です。牛深地区は、昭和35年、42年に、長期間の断水を経験しています。また、平成6年、7年の記録的な大渇水、近年では、平成12年、13年、16年の渇水対策本部の設置など、慢性的な水不足に悩み、その解消は地域住民の長年にわたる願いであります。

今回の作業において、水道事業者である天草市と連携し、改めて現在の水道事業計画について確認しました。需要量については、今後の人口減少なども見込んで、適切に計画されています。

一方、供給量については、平成5年度の計画で、水源として見込んでいた日量約8,000トンあれば、そもそも路木ダムはなくてもいいのではないか、という疑問の声が寄せられています。平成5年当時は、既存の水源を最大活用する計画でした。その後、平成6,7年の大渇水などを経験し、水源の能力について改めて検証が行われました。その上で、計画の変更がなされておりますが、今回、その変更の合理性についても確認いたしました。

また、可能性のある9種類の水源について改めて検討を行いました。そのうち5種類の水源については、「安定水源」にはならないことが分かり、残る4つの水源についてコストの比較分析を行いました。その結果、利水単独ダムが約97億円、海水の淡水化が約117億円、八代からの送水約168億円、水俣からの送水約137億円となり、ダムが最も有利となります。そのうえ、ダム以外の水源は、実施にあたっては水利権の取得等の厳しい課題があります。

(2)治水

次に、治水の観点からですが、洪水から地域を守るために何らかの対策が必要だと考えています。このため、現計画と同等の治水安全度を確保するために、河川の掘削や拡幅の他、遊水地など4つの工法について検討を行いました。その結果、多目的ダムを共同で進める手法が、最も安価であることを確認しました。

なお、現在のダム事業は総事業費90億円で計画されています。現段階において、執行済の額は約37億円です。検証の結果、残り約53億円で事業を完成させることができます。そして、そのうち、熊本県が実際に負担するのは約11億円であることを確認しました。

(3)財政

さらに、財政的観点から検証した結果、現時点でダムによらない治水対策へ転換する場合、2つの課題が生じます。ひとつは、補助金の返納の問題です。これまでに県が執行した事業費約31億円のうち、国費相当分15億5千万円の補助金を返納しなければなりません。これは、治水としてのダムを中止したことによる返納ですから、今後、路木川において、治水対策を全く行わない場合にも、必ず返却しなければなりません。そしてこの額は、このまま事業を継続した場合の県の実負担額約11億円よりも大きい額となるのです。

もうひとつは、天草市の負担の問題です。天草市が、水道事業としてダム建設を実施する場合は、天草市の負担額は約26億円増大します。天草市においては、そのことがとても重い課題となります。

(4)環境

また、環境の観点ですが、本県では、平成5年の事業着手以来、さまざまな環境調査・予測を行ってきました。羊角湾との関係で言えば、例えば、湾に流入する河川の流域面積全体に占める路木ダム流域面積は約5%です。また、羊角湾は、干満、いわゆる潮の満ち干により1日2回の海水の交換があり、その交換量に対する路木川からの、流入量の割合は0.1%です。このようなことから、路木ダムが羊角湾に与える影響は比較的小さいと考えています。だからと言って、環境への影響を完璧に予測することはできません。「熊本県公共事業等環境配慮システム」による多面的な検討を踏まえ、今後ともモニタリング調査や保全策を講じていく所存です。

4.最後に

今回の問題で、私は行政というものが持つ過去からの継続性と、それを現在という時間軸で、立ち止まって検証することとのバランスが、いかに難しいかを痛感しました。つまり、過去に決まったことを当然とし継続することが、行政の安定性を保ちます。一方、事業そのものが時代に合わなくなることがあります。そのため、継続している事業を常に現時点の目でチェックし判断することが必要です。その役割は、行政のトップであり、同時に県民の代表でもある知事が、責任を一身に背負って果たすべきものだと思います。そして、その判断基準は県民の総幸福量の最大化であるべきです。

天草地域には、長年にわたって渇水に怯え、苦しんできた歴史があります。地域住民の皆様の心の内には、常に水の心配があったことでしょう。日頃は節水を心がけるものの、ひとたび深刻な渇水状況が起きれば、住民同士が、貴重な水を互いに譲らず、さらなる渇水に陥ることが予想されます。私は、そのような形で、住民の皆様が苦しむのを見たくはありません。路木ダム事業を継続することによって、水が安定的に手に入るという安心感を住民の皆様に実感してもらうこと、それが行政の役割であり、そのことで、県民の総幸福量が大きく増大するものと確信しています。

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