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荒瀬ダムの今後の対応について(H22.2.3:知事発言)

更新日:2010年2月3日

  荒瀬ダムの今後の対応について説明させていただきます。

   ご承知のように、私は知事就任直後の、平成20年6月、荒瀬ダム撤去方針を一旦凍結し、総合的に判断するための検討に入りました。そして同年11月、庁内プロジェクトチームによる検証を行い、深刻な財政危機にある本県の現状においては、荒瀬ダムを存続させることが最適の選択であると判断いたしました。

   その判断で私が最も悩んだのは、長年にわたり、荒瀬ダムの影響で苦しんでこられた地元坂本町の方々のことです。ダム存廃について再考したこの期間に、荒瀬ダムの電気事業は、地元の方々の痛みの上に成り立っていたことを、私も、また多くの県民も知るところとなりました。

   ゆえに、存続の判断と同時に、荒瀬ダムの発電事業を未来永劫続けることが、最善の選択肢ではなく、撤去可能となる条件が整えば、撤去すべきであること、ただ、その条件が整うまで存続し、地域と共生するダムを目指すとの表明を行いました。そして、地元要望を踏まえつつ「荒瀬ダム対策アクションプラン」を取りまとめ、環境に配慮し地元と共生するダムとして運用することについて、地元に説明しご理解いただくべく準備を進めて参りました。

   しかし、荒瀬ダムを取り巻く環境は、昨年9月の政権交代によって一変しました。政権交代前、当時の民主党の菅直人代表代行は、荒瀬ダムを視察された際に、荒瀬ダムの撤去に関し、国の財政支援の必要性について言及されました。連立を組んでおられる福島みずほ社民党党首も然りです。そして、その後の総選挙で、民主党を中心とする政権交代が行われました。さらに、八代市では荒瀬ダム撤去を公約に掲げた福島新市長が誕生しました。地元や関係者の皆様方の撤去への期待感が一気に高まったことは当然のことであります。

  民主党が政権をとれば国が財政支援をし、荒瀬ダムを撤去できるという期待感。 民主党は、それを信じて投票した人々に、まず応えるべきではないかと思っています。同時に知事としての私も、民主党政権が選挙前に約束したことを実行すれば、地元住民が望んでおられる撤去のための条件が整うと考え、政府、与党民主党に対して、撤去に関する財政的、技術的支援を求める要望を積極的に行ってきました。その要望の中で、水利権の更新が間近に控えていることもあるので、平成21年末までに回答してほしいと繰り返しお願いしてきました。

   そして、本年1月14日にようやく前原国土交通大臣との面会にこぎつけました。その席での大臣の回答は、(1)現在の水利権は3月31日をもって失効する、これから水利権の申請を行っても許可は3月末までには間に合わないこと。(2)また、荒瀬ダム撤去費用について国が直接支援することは難しい、来年度予算に計上する「社会資本整備総合交付金」を撤去費用に活用してはどうか。(3)そして、現在、全国の老朽化した河川工作物への補助を検討しているので、今年の夏ごろまでに方針をまとめたい、というお答えでした。私はこの夏までに国がまとめる方針については、撤去への制度的な支援になるのではないかと期待しましたが、大臣は翌日の記者会見で、荒瀬ダムは対象外となる、と発言されました。

   私にとって、こうした大臣の発言は全く予想していないものでした。そもそも、水利権更新のための申請をぎりぎりの時期まで待っていたのは、民主党が昨年の総選挙の前に約束していた撤去のためのスキームを作るという言葉を信じてきたからです。その発端は選挙前の菅副総理の「県営であっても、自然回復事業なら国として費用の一部を負担することを検討すべきだ」という発言でした。さらに、前原大臣による老朽化した工作物の取り扱いの検討表明であります。それを今になって、水利権は3月末で失効する、さらに、荒瀬ダムは今検討している枠組みの対象外であるというのは、到底納得がいきません。

   そもそも、国が老朽化した工作物の取り扱いを検討し始めたのは、われわれの荒瀬ダム撤去についての補助の要請からです。早く更新手続きをしなかったのは甘すぎではないかと批判されました。しかし、私の政治学は「信頼と誠意の政治学」であり、一方で撤去のための補助を求めながら、もう一方で更新手続きを始めるような「両天秤の政治学」ではありません。

   大臣からの回答を受けて、私は荒瀬ダムについてどう判断すればよいのか、悩み続けてきました。国の「現行水利権は3月末で失効し、新たに別の水利権の申請が必要」という考え方は、県のこれまでの考え方とは異なるものでした。したがって、県としては20年の水利権申請を行い、訴訟してでも経営存続を目指すべきという意見も強くありました。先に行った存続という判断を貫くという選択肢は、当然ありえます。

   しかし、水利権取得を目指したとしても、認定までに多くの時間がかかることは確実であります。また、国と訴訟で争うことなどが予想され、発電できない期間がさらに長期化します。そうなれば、結果として存続できたとしても当初の収益計画が成り立たなくなります。また、訴訟の結果、水利権が最終的に不許可になるリスクもあります。つまり、水利権の存続そのものが不透明となり、同時にそれによってダム存続と判断した前提条件も崩れてしまいました。さらに、荒瀬ダム問題をめぐり、国と訴訟合戦を行うことにより、県政の混乱が長期化することは目に見えております。

   私は、県政を預かる者として、しっかりと将来を見通した上で、熊本県民が最も幸福になる選択をしなければならないと考えております。川辺川ダム問題、水俣病問題の例をあげるまでもなく、問題が長期化すること自体が、熊本県民の一体感を失わせ、発展を阻害します。私は、現時点ではもはや存続を目指すこと自体が、長い目で見ると適切な選択ではないと思うに至りました。そして何よりも、荒瀬ダム問題については、私の任期中にしっかりと解決の道筋をつけるべきだと思いました。

   以上の理由により、私は、荒瀬ダムは撤去すべきであると判断しました。

   前知事が表明した撤去方針を、私が知事就任直後に凍結、そして存続へと転換し、さらにその後政権交代という大きな状況の変化があったとはいえ、今回再び撤去に向けて舵を切ることになりました。この間、県民の皆様に対しご心配をおかけしたことについては素直に謝りたいと思っております。

   しかし、撤去へ舵を切ったらすぐに実現できるほど、問題は簡単ではありません。当然、撤去までには様々なハードルを乗り越えていかなければいけません。今後、撤去の第一段階として河川管理者である国との協議を行い、撤去計画の策定、撤去に向けた準備を行い、その期間が2年間必要だと思います。今後2年間でそれらの準備を完了し、平成24年度から本体撤去工事に着手する予定です。ただ、撤去に着手するまでに、次の4つのことに取り組まなければなりません。

   第1に、撤去費用の確保です。それに向けて最大限努力するとともに、そのことについて県民のご理解をいただけるよう努めなければなりません。まず、第一に国に対して、今年の夏までに取りまとめられる老朽化した工作物の取扱方針の中に、役割を終えた工作物として荒瀬ダムも対象に加えること、第二に社会資本整備総合交付金について、対象事業の追加・拡充を行うとともに、荒瀬ダムの撤去について十分な配慮を行うこと、第三に特別交付税の増額を強く働きかけて参ります。民主党におかれましては、選挙前からさまざまな場面で主張してきた国による支援を実現し、住民との約束を果たしていただきたいと思っております。同時に、県は発電機の主な設備更新を行わず発電を2年間継続し、一方で維持管理費用を抑制することにより、少しでも撤去費用の確保を図り、県民への負担が極力生じないようにしたいと思います。

   第2に、ダム撤去に伴う安全面へのしっかりとした対応を行います。わが国にとって初めてとなるダム撤去の安全面への影響については、不明な点が多く、大きなリスクをはらんでいることについては、県民の皆様のご理解をいただきたいと思います。道路や河川護岸の安全性の確保について、当然県も懸命に取り組みますが、国に対し、河川管理者として主体的に取り組むよう協力を求め、連携して取り組んでいきたいと思います。

   第3に、代替橋や農業用水の確保など地域の要望については、八代市や、地元に対し主体的に解決を図るよう求めます。この点については、それぞれの利害が対立し、収拾がつかなくなることがないよう、すべての当事者に撤去実現という目標が達成できるようご協力いただきたいと思います。

   第4に、ダム撤去による環境への負の影響を少なくするため、専門技術的な観点から国の支援を求めます。ダム撤去はわが国初のケースとなります。安全面だけでなく、環境面についてしっかりとしたデータを取って撤去技術を確立し、今後国が整備する老朽化した河川工作物を撤去する制度に生かしていけるようにしたいと思います。この点については国と連携して研究チームを編成し、取り組んでいきたいと考えています。

   次に水利権についてです。今述べた4つの整備のための準備、また撤去資金の確保を図り、県民への負担を極力生じさせないという観点から、藤本発電所の発電を平成24年3月31日まで継続できるよう、現行水利権の許可期間を2年間延長する申請を行うこととし、速やかに許可が得られるよう国に対し働きかけます。県民に過度な負担を負わせず、撤去を確実に行うためには、費用の確保が何としてでも必要です。1円でも多くの撤去費用を確保するために、八代市や球磨川漁協に対しては、撤去までの2年間の水利権延長について、ぜひともご理解をいただきたいと存じております。

   最後に、荒瀬ダム撤去にあたって、私は県民の皆様方に、荒瀬ダムとは一体何であったかということを今一度考え、記憶の中に留めていただきたいと思っています。

   荒瀬ダムは、戦後間もないわが国の復興の時期に、技術の粋を結集して建設されたものです。建設期間中12名の尊い命が失われるなど、工事も困難を極めました。そして、建設後、県内の電力需要に着実に応えてきました。操業を続ける中で、住民の皆様方に環境面でご迷惑をおかけし、それに対する企業局の対応も必ずしも十分でなかったことは確かです。この点については大変残念でありますし、企業局の経営者として申し訳なく思っております。

   しかし、荒瀬ダム自体は立派にその役割を果たしてきました。我々はこの荒瀬ダムからどういう教訓を学んだのか、そしてこれからそれをどう生かしていくのか。撤去を行うまでの過程をきちんとデータで残して今後の役に立てることも大切だと思います。それらを皆で共有した上で、撤去の日までの最後の働きとして、2年間発電をさせていただき、荒瀬ダム退役の準備をさせていただきたいと思っております。

  私は、先月、国から、水利権は3月末で失効する、荒瀬ダムは補助の対象にしないと、突き放されたときに、正直絶望の淵にありました。進むも困難、また、退くも困難となった現実にどう対処すべきか、随分と悩みました。そこで、私が行きついたのは私が大変尊敬する政治学者の丸山真男の言葉です。丸山は、現実というものを「可能性の束」と表現しています。その可能性の束のうちいくつかは、未来につながるものが必ずある。その認識なしに現実はこうだからとあきらめてはいけない、そのようなことを述べています。そして、私がその可能性の束から見出したのは、国、県、地元、関係者の力を総結集してダム撤去という難題にあたるということです。

   荒瀬ダム退役のためには、国や県、県議会、八代市のみならず、地元住民や漁業及び農業関係者、九州電力、専門家などの幅広い協力を得ることが必要です。撤去に向けて今後もさまざまな困難はあろうと思います。しかし、県民、関係者が一丸となり、この目標に向けて力強い一歩を踏み出すよう心からお願い申し上げます。

 

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